1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:07:52.72 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて二ヶ月・PM9:00・事務所内】

P「(××が何者かに殺されてから二ヶ月、俺はついに犯人を特定した)」

P「(犯人は…)」

※アイマスキャラによるミステリSSですが、作品を知らなくても解けるようになっています
 途中で犯人やトリックを読み切られてしまっても、そ知らぬ顔で投稿していきます
 矛盾や無理のある展開、論理の穴等がありましたら容赦なく指摘してください







4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:09:21.82 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・AM8:00・事務所前】

P『おはよう、春香』

春香『あ、おはようございます!プロデューサーさん!』

俺は朝の出勤途中に春香と会った
その日の仕事について話しながら歩いたのを覚えている

P『おはようございます』

春香『おはようございまーす!』

小鳥『あら、二人とも仲良しさんですね』

春香『も、もう小鳥さんったら!』

小鳥『それとプロデューサーさん、遅刻ですよ!』

P『はい、ごめんなさい…』




5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:11:32.95 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・AM8:30・事務所内】

社長『諸君、おはよう』

P『おはようございます、社長』

春香・真『おはようございまーす!』

雪歩『おはようございますぅ…』

30分ほどしてから社長がいらした
真と雪歩はこれより少し前に二人で来ている
俺は雪歩の淹れてくれたお茶を飲みながらタバコを吸っていた




6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:13:15.66 ID:jTF1+5pn0
小鳥『うん、うん…、分かったわ、お大事にね』

P『どうしたんですか?』

小鳥『響ちゃん、午前中にレッスンの予定だったんですけど、具合が悪いからお休みするそうです』

P『そうですか…、わかりました』

小鳥『プロデューサーさんも気をつけて下さいね、一人の体じゃないんですから』

P『はい、わかっています』

P『よし、じゃあ行こうか春香』

春香『はい!』

P『社長、行って参ります』

社長『うむ、頑張ってきたまえ』

雪歩『あの、社長もお茶いかがですか?』

社長『おお、これはかたじけない』

春香を連れて午前の仕事へ
真と雪歩はレッスンの予定だ




8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:15:36.06 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・PM1:30・仕事帰りの車内】

P『お疲れ、春香』

春香『お疲れ様です…、もうヘトヘトですよお』

P『頑張ったな、でも今日はもう仕事ないからな』

春香『あはは、嬉しいやら、悲しいやらですね』

春香が言ったように、まだまだ765プロは有力事務所とは言えない
実際、休日だというのにこの日仕事のため事務所に来たアイドルは全体の半分もいない

P『これから忙しくなるさ』

春香『はいっ、頑張ります!』

P『この後はどうする?』

春香『えっと、事務所で小鳥さんとかとお喋りしてても良いですか?』




9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:17:30.98 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・PM2:00・事務所内】

美希『あふぅ、おかえりなの』

千早『お疲れ様、春香』

春香『ただいま、二人とも』

美希と千早は午後1時30分頃に事務所にやってきたらしい
美希はこれから仕事、千早は自主トレだ


P『ただいま戻りました』

社長『おかえり、どうだったかね』

P『はい、春香も大分実力がついてきたと思います』

社長『それは良かった、もう君がいてくれれば765プロは安泰だな』

P『そんな、とんでもないです』

社長『ところで、私は今日ちょっと用事があって出かけるから後のことは頼んだよ』

P『はい、わかりました』

そう言って社長は社長室に入っていった
社長室は事務所の中心にあって、事務所のほとんどの場所から視界に入る

社長が出かけるより先に俺は美希・真・雪歩の三人を連れて仕事先へ向かった




10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:19:04.34 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・PM5:30・仕事帰りの車内】

P『三人ともお疲れさん、よく頑張ったな』

美希『あふぅ、ミキ眠いの』

雪歩『お疲れさまですぅ…』

真『へっへー、今日のボク結構いけてたんじゃないですか?』

P『ああ、みんな良かったよ』

三人の仕事が終わると、4人で1台のタクシーに乗って帰った

美希『ねえハニー、ミキたちとっても頑張ってるのになんで事務所はボロっちいの?』

P『おいおい…、その、今はそうだけどもう少ししたら立派な所に移れるさ』

美希『ホント?』

P『ああ、みんな頑張っているからな』

真『じゃあボクはシンデレラ城みたいな事務所が良いなあ!』

P『おいおい、どんな事務所だよ』

雪歩『…』

確かに765プロのアイドル達には誰もが認める将来性がある
しかし、もうしばらくはこのカツカツな状況は続くだろう




11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:20:23.83 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・PM6:00・事務所内】

P『ただいま戻りました』

美希『ましたーなの』

真『雪歩、大丈夫?』

雪歩『うん、ちょっと疲れちゃって…』

真『何言ってるんだよ、今日はもう帰ろうね』

雪歩『ありがとう、真ちゃん…』

P『あれ、誰もいないな…』

美希『あ、千早さんがスタジオにいるの』

P『小鳥さんはどうしたんだ…?』




12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:21:34.89 ID:jTF1+5pn0
小鳥『あらみんな、おかえりなさい』

その時後ろから小鳥さんがやってきた
飲み物の入ったコンビニのビニール袋を持っている

P『買出しですか?』

小鳥『はい、ちょっと喉が渇いちゃって』

P『そうですか、ところで春香はどうしましたか?』

小鳥『春香ちゃんは一時間ほど前に帰宅しました、千早ちゃんはずっとスタジオにこもりっきりです』

小鳥『それと、社長は用事があるそうでプロデューサーさんたちのすぐ後に外出されました』

P『はい、それは伺ってます』

この時事務所にいたのは、戻ってきた俺達4人と小鳥さん・千早の6人ということになる




13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:23:07.26 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・PM6:10・事務所内】

真『それじゃあ、お先に失礼しまーす!』

雪歩『失礼しますぅ…』

P『お疲れさん、雪歩をよろしくな』

真『へへっ、任せてください!』

程なくして真と雪歩が二人で帰路についた
いつも思うが、あの二人は本当に兄妹か恋人のように見える




15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:24:19.40 ID:jTF1+5pn0
美希『ミキ、千早さんと一緒にレッスンしてこようかな』

P『お、どうしたんだ?珍しいな』

美希『むー、ミキだってたまには頑張るもん』

P『そうだな、偉いぞ』

美希『エヘヘ、じゃあハニー今度デートしよ?』

P『なんでそうなる…』

美希『頑張ったご褒美なの!』

P『自分で言うなよ…、じゃあ今度ファミレスで食事でもするか』

美希『うん、約束だよ!』

P『ああ』

美希『嘘ついたら針千本なの!』

P『はいはい』

美希『それじゃ、千早さんとシンボクをフカメてくるの!』

P『ああ、頑張れよ』




16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:26:00.94 ID:jTF1+5pn0
P『あ、そうだ』

俺は響に電話をかけた

P『もしもし、大丈夫か?』

響『ぷろでゅーさー、頭がガンガンするぞ…』

P『無理しないでいいからな、しっかり治せよ』

響『うん、ありがとうさー…』

P『次は…』

P『もしもし、春香か?』

春香『あ、プロデューサーさんお疲れ様です!どうしたんですか?』

P『いや、顔を見ないで分かれたからな』

春香『えへへ、実は宿題が残ってて…、小鳥さんに帰ったほうが良いって言われちゃっったんです』

P『そうだな、宿題はちゃんとやれよ』

春香『本当はもっと残ってお喋りしてたかったんですけど…』

P『これからいくらでも出来るさ』

春香『ええ、そうですよね』




18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:27:10.67 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・PM6:20・事務所内】

美希『ハニー、ミキ眠いからもう帰るの』

P『おい、まだ10分しか経ってないぞ』

美希『帰ってご飯食べてお風呂入っておやすみなさいなの』

P『まあ無理はしないほうがいいんだが…』

美希『千早さんはすごいの…』

P『少しは見習おうな』

美希『あとね、今度千早さんとお買い物行く約束したの…』

P『へえ、よかったじゃないか』

美希『うん、じゃあハニー、また明日ね…』

P『ああ、気をつけて帰れよ』

どうやら、美希と千早の『シンボク』は『フカマ』ったらしい




20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:28:44.23 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見される前日・PM7:00・事務所内】

P『ふう、今日はなんだかノルマが少なかったですね』

小鳥『プロデューサーさん、これから呑みに行きませんか?』

P『それは嬉しいお誘いなんですが、財布が…』

小鳥『だーいじょーぶですよ!お姉さんがおごってあげます』

P『いえ、そういう訳には…』

千早『お疲れ様です』

千早がスタジオから出てきた
ずっと練習をしていたのだろう、額に汗が滲んでいる




23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:30:02.88 ID:jTF1+5pn0
千早『プロデューサー、いらしてたんですか』

P『さっきからいるぞ』

千早『すみません、スタジオに入っていると分からなくて…』

小鳥『千早ちゃん、もう鍵閉めちゃっていいかしら?』

千早『はい、私ももう帰りますから』

P『あれ、今日はカバンもって来てないのか?』

千早『はい、財布と携帯電話しか持ってきていないので』

俺と小鳥さんは結局ワリカンで少しだけ呑み、分かれた
3人で一緒に事務所を後にしたから、この時点で事務所には誰もいないはずだった




24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:31:28.97 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見された日・AM8:00・事務所内】

P『おはようございまーす、ってなんだこの臭い!?』

朝、俺が事務所の鍵を回してドアを開くと、凄まじい臭いが襲った
そしてその強烈な異臭は社長室の中にあるものが原因らしい
俺はドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた

P『社長!いるんですか!?社長!!』

ドアを何度叩いても反応はなかった
俺の頭にはこの時、社長が部屋で糞を垂れ流し途方にくれている光景が僅かによぎった
現実はそれよりずっと悲惨なものだったのだが

俺は仕方なくビルの管理人にマスターキーを借りに行った
後に明らかになるのだが、長い間俺以外に鍵を借りに来た人間はいないらしい

P『社長、失礼します!』

鍵は開いたが、開くドアが近くの何かにぶつかり、上手く開かなかった
俺は強く力をいれてドアを押し、中を覗いた

ドアの近くで何十もの真っ黒なカラスが、うつぶせに倒れている社長の遺体をむさぼっていた




25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:33:38.02 ID:jTF1+5pn0
自分でも驚くほどに、その後の処理はさくさくと済ませることが出来た
警察と病院に連絡をしたのち、アイドル達に当日の予定のキャンセルを伝えた
みんな戸惑っていたが、事件については後日伝えることにした

小鳥『なんで、こんな事にっ…!』

P『小鳥さん…』

出勤早々警察関係者で一杯の事務所に驚いている小鳥さんに、俺が事件を伝えた
765プロで社長と最も長い付き合いの彼女は言葉を失い、やがて顔を伏せ泣き続けていた

俺は悲しむことはひとまず置いておいて、自分に出来ることをしよう
そして出来ることならこの手で犯人を捕まえたい、そう思った




27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:35:24.21 ID:jTF1+5pn0
だが現実的に、その仕事は警察のものだった

俺が通報してすぐに死体と現場の検証が始まった
社長の死因は背中を大型の刃物で一突きされたことによる失血死
自分では手が届かない場所のため、自殺の線はまずない

即死ではなく、刺されてから1,2分経ってから死亡したようだ
そして凶器はまだ見つかっていない

死亡推定時刻は前日の午後2時(俺が最後に社長に会った時間だ)から午後8時
社長は午後7時まで事務所に戻って来てはいないことを俺たちが確認している
また、どこか別の所で殺され、運ばれてきたというような形跡はなかった
よって殺されたのは社長室の中で、時間は午後7時から午後8時の1時間、ということになる

俺たち全員が午後7時に事務所を出た
それからまもなくして社長とその知人であろう犯人が事務所にやってきた
争った形跡はないので、隙をついて用意した刃物で殺害した
凶器は犯人が持ったまま、内側からドアの鍵を閉めて窓から出た

以上が警察によるこの事件の見解だ
しかし俺はどこか腑に落ちないものを感じていた




65 :切れる人なら>>27までで解けます 2012/06/09(土) 23:20:38.72 ID:jTF1+5pn0
携帯ですぐ近くにいる犯人にメールを打つ
このあと、二人きりで会えないかと

事務所に着信音が流れる
彼女は表情を変えずにメールを読み、返信を打っている
その様子が、自分が社長を殺した犯人なのだと語っていた

すぐに俺の携帯が震えた

Re:無題
わかりました、近くの公園で待っています




66 :切れる人なら>>27までで解けます 2012/06/09(土) 23:22:13.25 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて二ヶ月・PM9:00・事務所内】

P「(社長が何者かに殺されてから二ヶ月、俺はついに犯人を特定した)」

P「(犯人は…)」




28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:36:59.08 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて一ヶ月・PM0:30・事務所のビルの屋上】

春香『プロデューサーさん!』

P『ああ、春香、どうした?』

春香『元気なーいでーすよ?』

P『ここのところ、無茶苦茶忙しかったからなあ』

春香『そうですねー、この一ヶ月で今までよりずっと多くテレビ出ちゃいましたよ』

皮肉にもこの事件は765プロの知名度を飛躍的に上昇させた
しかも、あくまでも被害者であるために世論は同情的だった

『柱を失いながらも、それを乗り越え健気にがんばる少女たち』

これがメディアが作った765プロアイドル達の設定のようだ

個人的にはこんな形での活躍は望んでいなかったが、仕事をしないわけにもいかない
よそから有能な人材を雇うことでなんとか事務所を機能させることには成功した

しかし、犯人はまだ捕まっていない




29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:38:08.81 ID:jTF1+5pn0
P『でも、ひと段落したらちょっと考え込んでしまってな』

春香『…社長のことですか?』

P『ああ…』

春香『やっぱり、寂しいですよね…』

P『ああ、でもそれだけじゃないんだ』

春香『え?』

P『この事件、やっぱりおかしいんだ』

春香『どういうことですか?』

P『…いや、言っても心配をかけるだけだ』

春香『もう遠慮しないで下さいよ、誰かに聞いて欲しいんですよね?』

春香は俺の心中を見透かしているようだった
実際、俺は誰かに話すことで自分の考えを整理したいと思っていた




30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:40:42.09 ID:jTF1+5pn0
P『…わかった、あくまで俺の勝手な考えだから真面目に聞かないでくれ』

春香『はい』

俺はタバコに火をつけた
何から話すべきだろうか…

春香『プロデューサーさん、タバコ吸うんですね』

P『時々な、考え事をするときに吸うんだ』

P『…まず、犯人の動機があまりに不鮮明だということだ』

春香『動機?』

P『…春香は、人が人を殺すのはどういう時だと思う?』

春香『えっと…、その人のことが大嫌いだからとか?』

P『そうだな、他には?』

春香『フフッ』

P『どうした?』

春香『プロデューサーさん、先生みたい』

P『自分でも少し思ったよ』




31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:41:39.11 ID:jTF1+5pn0
春香『他には、遊ぶ金欲しさとかもありますよね』

P『そう、まあ自分にとって必要だから相手を殺すパターンだな』

春香『嫌いだから殺す…、欲しいから殺す…、ですか』

P『ああ、その二つのどちらかか、あるいは両方だな』

P『でもこの事件はそのどちらにも当てはまらないように思えるんだ』

P『まず、社長は背中を一箇所刃物で刺されただけだったんだ』

P『個人的な恨みを抱いているのだとしたら、それはちょっとあっさりしすぎているような気がする』

P『殺したいくらい憎いのなら、もっとやりようがあっただろう』

P『(結果的には、窓が開いていたからカラスが入ってきて悲惨な状態になっていたが…)』




33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:43:00.81 ID:jTF1+5pn0
春香『それじゃあ、嫌いじゃないけど自分のために…ということだったんでしょうか』

P『それなんだが、社長室どころか、事務所のどの部屋からも何も盗まれた形跡はなかった』

春香『え、そうなんですか?』

P『ああ、社長のサイフや金庫にも手付かずだったんだ』

P『だから、金品ではなく社長が邪魔な人間による犯行だと考えていた』

P『例えばライバル事務所の関係者なんかじゃないかと』

春香『でも、それは…』

P『そう、結果的にだけどそういう人たちにとっても面白くない事件になったんだ』

P『少なくとも、殺人という大きなリスクを犯してまで得るものはない』

春香『そうですね…』




34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:44:33.98 ID:jTF1+5pn0
春香『あっ、もしかしたらその二つ以外にも動機ってあるんじゃないでしょうか?』

P『その二つ以外?』

春香『はい、その人が嫌いだからでもなく、何か欲しい訳でもなくて…』

P『うーん…、ちょっと俺にはそれ以外の理由は思いつかないな』

春香『えへへ、私もよくは分からないんですけど…』

P『まあ、動機に関しての疑問はこんなところだ、犯人が捕まったらぜひとも理由を聞いてみたいよ』

春香『他にもあるんですか?疑問』

P『ああ…、でもお昼休みはもう終わりだ、続きはまた今度だ』

P『悪いな、こんな話しちゃって』

春香『いえいえ、私でよければいくらでも話してください!』




35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:46:08.44 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて一ヶ月・PM1:00・事務所内】

真『プロデューサー、お疲れ様でーす!』

P『おう真、雪歩はどうだった?』

真『そうですね、顔色はだいぶ良くなってましたけどまだ…』

P『そうか、ありがとう』

真『いえ、友達なんだから当然ですよ!』

社長の死と急激に忙しくなった活動から、少し前までアイドルはみんな憔悴していた
特に雪歩はその薄幸そうなキャラクターも相まってマスコミの執拗な取材の的になった
俺も出来る限りのことはしたが、数日前ついにダウンしてしまったのだ
真は俺の代わりに、暇をみつけては雪歩のお見舞いに行ってくれている

小鳥『真ちゃん、このお茶の葉なんだけど雪歩ちゃんに渡してくれる?』

春香『あ、私も今日雪歩が読みたいって言ってた漫画持ってきたんだ!』

美希『じゃあミキも、このおにぎり雪歩に食べてもらうの!』

真『いや、流石に食べかけのおにぎりは…』

俺たちはなんとか支えあって、今日まで過ごしてきた




36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:47:25.08 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて一ヶ月と二週間・PM5:00・仕事帰りの車内】

春香『なんだか今日は普通のアイドルっぽいお仕事でしたね!』

P『そうだな、歌もダンスもすごく良かったぞ』

俺は助手席に春香を乗せて車を運転していた
世間は飽きっぽいもので、アイドル達が悲劇のヒロイン扱いされることは少なくなってきた
事件についてこれといった続報もないのだから当然といえば当然だ

警察がこの事件の捜査から少しずつ手を引き始めているのは明白だった
事務所を訪れる警察関係者の数も格段に減ってきている

春香『プロデューサーさん…』

P『ん?』

春香『事件のこと、話してください』

P『聞きたいのか?』

春香『プロデューサーさんが話しているところを見ていたいんです』

P『ははは、なんだよそれ』

タバコが吸えないのがもどかしい
俺はカーステレオから流れる音楽を切った




38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:48:35.11 ID:jTF1+5pn0
P『この前話した動機についての話は覚えてるか?』

春香『はい』

P『俺は動機が見えてこないって言ったけど、それは犯人にしか分からないものかもしれない』

P『そうだとしたら、どうして殺人を犯したのかが俺に分からないのも当然なんだ』

P『「どうして」殺したのかは分からなくても仕方がない、でも』

春香『でも…?』

P『「どうやって」殺したのかも分からないんだ』




39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:50:01.56 ID:jTF1+5pn0
春香『どうやってって、それは社長を刺して窓から逃げたんじゃ…』

P『うん、俺もそう思ってたよ』

P『でも社長が殺されたのは休日の午後7時から午後8時、かなり人通りのある時間帯だ』

P『しかもあの窓のあたりは居酒屋のネオンで照らされていて、どうしても目立ってしまう』

P『さらに真下には常に数人の客引きがいる』

P『そんな状況でそこから出れば、ほぼ確実に目撃証言があるはずなんだ』

春香『見た人、いなかったんですか?』

P『ああ、かなりの規模の聞き込みがあったらしいんだが』

春香『そうなんですか…』




40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:50:48.34 ID:jTF1+5pn0
春香『あっ、それじゃあロープか何かで窓から屋上に上がったんじゃないですか?』

P『おー』

春香『どうです?』

P『ハズレだ』

春香『あう…』

P『そういった痕跡はなかったし、屋上には鍵がかかっていたんだ』

P『それに、その方法でも結構目立つだろうしな』

春香『あはは、確かに…』




41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:52:23.35 ID:jTF1+5pn0
P『だから、窓からうまく逃げるのは不可能ではないが極めて難しい』

P『わざわざ凶器を用意している人間がそんな危ない橋を渡るとは思えないんだ』

春香『そうですよね…』

P『すると、堂々とドアから出たことになるんだが…』

春香『だが…?』

P『鍵がかかっていたんだ、事務所の出入り口だけでなく社長室のドアにも』

春香『そんな…』

P『俺はあの日社長室を開けるためにマスターキーを借りたんだが、長い間借りた人はいなかったらしい』

春香『そうなんですか…』




42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:53:39.90 ID:jTF1+5pn0
春香『あっ、それじゃあ社長から鍵を盗んで外から鍵をかけたんじゃないですか?』

P『おー』

春香『どうです!?』

P『ハズレだ』

春香『あう…』

P『鍵は社長室の中にあったんだ、それもいつもどおり社長の首にぶら下げてあった』

P『そのへんに転がっていたなら春香の説もあり得たんだけどな』

春香『なんでですか?』

P『窓が開いているから、外から社長室の中に向かって鍵を投げればそうなるからさ』

春香『あー、なるほどぉ』




43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:54:36.11 ID:jTF1+5pn0
P『警察は窓から逃げたものとして捜査しているんだけど、やはりそれは難しいように思える』

P『つまり、この事件は事実上の密室殺人ということになるんだ』

春香『なんだか二時間ドラマみたいですね』

P『春香はそういうの観るのか?』

春香『たまーにですけど、お母さんと一緒に』

P『仲良しなんだな』

春香『えへへ、そうですね』




45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:55:38.06 ID:jTF1+5pn0
P『無理矢理考えれば、俺が思いつく方法は二つだ』

春香『は、はい』

P『一つは、忍者のように誰にも見つからずに窓から脱出する方法』

P『もう一つは、何らかの方法で社長室の鍵と事務所の鍵を閉めて外に出る方法』

P『「どうして」の話に戻るが、後者のメリットは殆どないように思える』

P『わざわざ…例えば鍵の複製や道具を使ってまで施錠しても、手間と時間がかかるだけだ』

春香『そうですね…』

P『社長は即死ではなかったから、追ってこないように鍵を閉めたとも考えられるが…』

P『それならもう一度刺してしまえばいい話だ』

P『それに、特殊なつくりの鍵だからコピーもピッキングもまず不可能らしい』

春香『警察はどう考えてるんですか?』

P『「忍者のような」犯人を追っているよ』

春香『そうなんですか…』

春香には言えなかったが、俺にはもう一つの仮説があった
そしてそれは考えるほどに俺の中で有力になっていった
俺を除けば、小鳥さん・春香・真・雪歩・美希・千早の6人
「あの日765プロに来ていた誰かが犯人」だと…




46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:57:19.73 ID:jTF1+5pn0
俺はあの日記録しておいた事務所の人の出入りのメモを見た

8時 俺と春香が事務所に到着
    この時、すでに小鳥さんは来ていた

8時30分 真と雪歩が一緒に来た
      間をおかずに社長が出社している
      入れかわる形で俺は春香を連れて仕事へ

13時30分 美希と千早がほぼ同時に事務所に来たらしい

14時 俺が春香を連れて戻ってきた
    この時、まだ社長は生きていた
    そして俺は美希と真と雪歩を連れて再び仕事先へ
    社長はこのすぐ後に外出したらしい

17時 小鳥さんと過ごしていた春香が帰宅

18時 俺と美希と真と雪歩が事務所へ
    この時、小鳥さんが少し席を外している

18時10分 真と雪歩が一緒に帰宅

18時20分 美希が帰宅

19時 俺と小鳥さんと千早が事務所を出る

社長が殺されたのが14時から20時
やはり、俺たち全員がいなくなった19時から20時の間に犯行があったと考えるのが自然だ…




48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 22:59:37.58 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて二ヶ月・PM7:00・事務所内】

美希『ただいまーなのー!』

千早『ただいま戻りました』

P『おかえり、二人とも今日はオフじゃなかったのか?』

美希『うん、ひさしぶりのお休みだから千早さんとお買い物にいって来たの』

千早『約束していたのだけれど、ずっと取材とかで忙しかったから…』

美希『もう、社長さんが死んじゃったからいきなりチヤホヤするなんて、ちょっと違うって思うな!』

美希がなんだか社会派な発言をしていた




49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:00:42.93 ID:jTF1+5pn0
P『そうか、約束覚えててえらいな』

美希『むぅー』

P『どうした?』

美希『ハニーは約束覚えてないの?』

P『約束?』

美希『むぅー!』

P『ああ思い出した、ファミレスに行く約束か』

美希『そうなの!ほら早く行くの!!』

P『今からか?』

小鳥『プロデューサーさん、こっちは大丈夫ですから行ってきてあげてください』

美希『小鳥ー、ありがとーなのー!』

小鳥『ええ、でももう有名人なんだから目立たないようにね?』

P『すみません、じゃあお願いします小鳥さん』

小鳥『はい、いってらっしゃい』

美希『行ってきまーすなのー!』




50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:01:57.23 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて二ヶ月・PM7:20・近所のファミリーレストラン】

俺と美希は出来るだけ目立たない席についた
不本意な形ではあるが、アイドル達が有名になったことを実感する

P『美希、何にする?』

美希『えーっと、カルボナーラと苺ババロアにするの』

P『そうだな、俺は…』

美希『針千本なの!』

P『なんでだよ』

美希『ハニー、嘘ついたから』

P『…悪かった、勘弁してくれ』

美希『えー、じゃあまた連れてってくれる?』

P『ああ、分かった』

美希『えへへ、じゃあ許してあげるの!』




51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:03:27.78 ID:jTF1+5pn0
美希『でももう嘘ついちゃだめだよ?』

P『ああ…』

そう、誰かが嘘をついているのだ
あの6人の中の誰かが犯人だとしたらだが…

こんな事は考えたくない
しかし、もはやそう考えるしかない

一体誰がどうして、いつ、どんな嘘をついたんだ…




52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:04:19.80 ID:jTF1+5pn0
美希『ねえハニー?』

P『…ん?』

美希『タバコ、火ついてないよ?』

P『ああ…、禁煙席だからな…』

美希『ねえハニー』

P『…ん?』

美希『事件のこと考えてるの?』

P『…なんでわかるんだ?』

美希『ミキ、ハニーのことならなんでも分かるよ』

美希『ねえハニー、ミキに相談してほしいな、何か分かるかもしれないよ?』

少し迷ったが、俺は美希に事件当時の状況について話した
先月、車の中で春香に話したのと同じ内容だ




54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:06:25.91 ID:jTF1+5pn0
美希『ふーん』

P『美希はどう思う?やっぱり上手く窓から出たんだろうか』

美希『ねえハニー、怒らないで聞いてね?』

P『え?』

美希『ミキ的には、社長さんを殺したのは事務所の誰かだと思うな』

P『ぶっ』

美希『わっ、タバコが落ちたの』

俺はひどく驚いた
美希が俺と同じ考えに至ったことに




55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:08:00.43 ID:jTF1+5pn0
P『…どうしてそう思ったんだ?』

美希『うーんとね、あの日事務所に来てなかった人たちだとムリっぽいと思うの』

美希『だから、事務所にいた誰かが犯人じゃないかなって』

まさか美希が犯人で、あえてこう言うことで自分への疑いをなくそうと考えたのか…?

美希『ちなみに、ミキは犯人じゃないよ』

P『…ああ、分かってるよ』

全てお見通し、という感じだ

美希『あ、美希のご飯が来たの!』

美希『そういえばハニーは何を頼んだの?』

俺たちは話をいったん止めて、食事に集中した
俺の席にうにのスパゲッティとモンブランが運ばれてくるのを見て、美希は腹を抱えて笑っていた




56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:10:03.90 ID:jTF1+5pn0
P『もしかして、犯人まで分かったのか?』

美希『それはまだ無理なの、でもあの二人のどちらかだと思うな』

P『…二人!?』

美希『うん、やっぱりあの二人以外には多分無理なの』

P『本当に凄いな美希は…、俺は長い間ずっと外部の犯行だと思っていたのに』

美希『多分それはね、ハニーが優しくて事務所の誰かを犯人扱いしたくなかったからだと思うな』

以前、美希はほとんど勉強をしないが良い成績だと誰かが言っていた
これほどの頭脳と洞察力をもっているのだから、その話は本当なのだろう




57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:11:57.11 ID:jTF1+5pn0
美希『ねえハニー、気持ちは分かるけど自分にウソをついちゃダメなの』

美希『もう大体分かってるんでしょ?8人の中に犯人がいて、そしてその中の誰が犯人なのかも』

P『…8人?』

美希『うん』

P『いや、小鳥さんと春香・真・雪歩・千早、そして俺と美希の7人だろ?』

美希『もう1人いたの』

P『もう1人?』

美希『だって、その人がいないとカギがしまらないの』

P『……………………あ』




59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:13:47.42 ID:jTF1+5pn0
俺はずっと、閉じられた社長室の鍵の問題を放置していた
どうにかして複製品を手に入れたとか、そんな無理矢理な答えを出していた
それよりも、美希が教えてくれた考えのほうがずっと自然だ

しかし、なぜ美希にも二人にまでしか絞り込めないんだ?
美希ならば手がかりさえあればあっという間に答えを出せるはずだ
つまり、美希には解決に至るまでの最後の手がかりがないということだ
そして、その手がかりを俺は持っているのかもしれない

「あの二人」というのはあの二人のことだろう
あの日、犯行が可能だったのはどっちだ…?
あの日、犯行が不可能だったのはどっちだ…?

そういえばあの日、あいつは…
ということは…、そうか…、ああ、やっぱりそうだったのか…

美希の言うとおり俺はこの答えに気づいていた
でも、出来れば彼女には犯人であって欲しくなかった
だから、確信を持ちたくなくて目を背けていたんだ




62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:16:05.97 ID:jTF1+5pn0
P『美希』

美希『はいなの』

P『犯人が分かったよ』

美希『うん』

P『一応、事務所で最後の確認をしておこうと思う』

美希『うん』

P『これで会計をしておいてくれ、外で待ってる』

美希『うん』

P『悪いな』

美希『ううん』

P『じゃあ…』

美希『ハニー』

P『なんだ』

美希『泣かないで、なの』

P『…………うん…』




64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:18:04.20 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて二ヶ月・PM8:30・事務所内】

事務所には、まだ何人も人が残っている
そしてその中には犯人の姿もあった

まず、スタジオの窓から社長室の方を覗いてみる
…やはり中からだと死角になっている

次に社長室の前に立ち、全体を眺めてみる
小鳥さんのいる事務室
真と雪歩のいる給湯室
春香と千早と響のいる応接室
これらの部屋にはドアがないから、この位置からは今いる全員がよく見える

俺は確信した




69 :次から解答編です 2012/06/09(土) 23:24:58.42 ID:jTF1+5pn0
【遺体が発見されて二ヶ月・PM9:30・事務所前】

犯人を除いた全員が帰路に着いた
そして彼女だけが駅と反対方向にある公園へ歩いていった
他のみんなと一緒に帰っている美希が、こちらを心配そうに見ていた

俺はコンビニで缶コーヒーを二つ買い、あとに続いた
もしかしたらお茶のほうが良かったのかもしれない

公園のベンチに彼女は座っていた
その姿は申し訳ないような、諦めているような、そんな風にも見えた

俺が近づいても彼女はこちらを見ようとしない
俺は何も言わずにその隣に座った
コーヒーを渡すと、彼女は無言でそれを受け取った
何から話すべきだろうか、そう考えているうちに彼女が口を開いた




73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:30:00.36 ID:jTF1+5pn0
「遅刻ですよ、プロデューサーさん」
























P「ごめんなさい、小鳥さん」




77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:33:05.34 ID:jTF1+5pn0
小鳥「よく分かりましたね、プロデューサーさん」

P「美希のおかげです」

小鳥「謙遜しなくてもいいじゃないですか」

P「美希が教えてくれたんです、あの日に事務所にいたのは全員で8人だということに」

小鳥「…その様子だと、もう全部わかっちゃったみたいですね」

P「『どうして』あなた達があんな事をしたのかはわかりませんが、『どうやって』あの状況を作ったのかは大体わかりました」

小鳥「…よろしい、ではお姉さんが百点満点で採点してあげます!」

そう言って小鳥さんはいつもの様に笑った
とても殺人犯とは思えない、優しい笑顔だった

俺はタバコに火をつけた
オイルがもうほとんどなくなっている




79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:35:13.05 ID:jTF1+5pn0
小鳥「プロデューサーさん、最近よくタバコ吸いますね」

P「考え事をするときに吸うんです」

小鳥「それじゃあ、今日でタバコともお別れですね」

P「ええ、そうなります」

俺は煙を吐き出し、話を始めた




80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:36:51.81 ID:jTF1+5pn0
P「事件が起こって間もない時は、俺も二通りの見当違いな考えをしていました」

P「一つめは、午後7時から8時に事務所に戻ってきた社長は社長室で殺され、犯人は窓から出て行ったのだと」

P「これがあの状況を見て、凡人にまず浮かび上がる事件像です」

P「しかし、あの時間帯に人目に触れられずにあそこから出るのは極めて難しい」

P「ですが、この『難しいが不可能ではない』という状況をあなたたちは作った」

P「というよりも、俺たちのために『作ってくれた』のでしょう」




81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:38:41.15 ID:jTF1+5pn0
P「もう一つは、犯人は窓からではなく社長室のドアを通り、事務所の玄関から出て行ったという考えです」

P「しかし、これには一つめ以上に困難で不可解な問題がありました」

P「社長室と玄関、二つの鍵がかかっていたということです」

P「この場合には『どうやって』だけでなく、『どうして』という疑問が残ります」

P「ご存知のように、あの鍵は特殊なつくりで、合鍵を作るのはまず不可能です」

P「仮にカギの複製を持っていたとしても、なぜ殺人を犯した人間がわざわざ鍵を閉めて行ったのか」

P「鍵が開いていようが閉まっていようが発見されるのは翌日の朝だというのは分かりきっていますし、意図が見えません」

P「まあこれよりは一つ目の考え方のほうが自然ですから、『犯人はどうにかして誰にも見られずに窓から脱出した』、これが警察の見解です」




83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:42:29.62 ID:jTF1+5pn0
P「そして、警察にそう思わせるところまでがあなたの思い通りでした」

P「いえ、あなたたちの」

P「警察よりも俺が有能というわけではありません」

P「あの日、俺はあの場所にいたからなんとなく分かったんです」

P「この事務所にいた人間ならば、犯行が可能だということに」




85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:45:07.47 ID:jTF1+5pn0
P「あの日、嘘をついていた人間が二人います」

P「一人は小鳥さん、あなたです」

P「そしてもう一人、おそらくこの人物がこの事件の首謀者だったんでしょう」

P「小鳥さん、あなたは単なる共犯者、実行犯に過ぎなかった」

P「あの日、事務所にいた8人目の人物、その人こそが真犯人です」














P「真犯人は、社長です」




90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:48:08.20 ID:jTF1+5pn0
小鳥「…」

P「間違っていますか?」

小鳥「いえ、その通りです、続けてください」

P「はい」




91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:49:26.47 ID:jTF1+5pn0
P「社長はあの日、午後2時に俺に『用があるから出かける』と言っていました」

P「その後すぐに俺は仕事先に向かいましたから、実際に社長が外出するところを見たわけではありません」

P「おそらく、俺やアイドル達の当日の予定を考えて計画を練ったのでしょう」

P「実際には社長は、あの日ずっと社長室の中にいたんです」




92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:50:21.32 ID:jTF1+5pn0
P「アイドル達が自分から社長室の中に入ることはまずありません」

P「ですから出かけたはずの社長が中にいることはバレないでしょう」

P「いえ、そもそもアイドル達には出かけるとすら伝えていなかったのかもしれません」

P「それならば社長が事務所にいることがバレても何も問題がありませんからね」




93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:52:22.22 ID:jTF1+5pn0
P「そのようなことがあった場合、犯行の日を改めればいいだけですから」

P「社長がいるとなれば、死亡推定時刻の午後2時から午後8時のどの時間でも殺害は可能です」

P「予定では午後2時から6時まで、事務所には社長と小鳥さんしかいないことになっていました」

P「その4時間のどこかで犯行を遂げる予定だったのでしょう」

P「しかし、ここでイレギュラーな出来事がありました」

P「その時間に、春香と千早が事務所にいたんです」

P「春香はなんとなく暇だから、千早は自主トレとしてですが、これらは予定外の事態でした」




94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:54:51.11 ID:jTF1+5pn0
P「千早はスタジオにこもりっきりのようでしたが、春香はずっと小鳥さんと話していたと言っていました」

P「その日に限っては、あなたにとって春香はとても邪魔な存在だったんでしょう」

P「その時点で、あなたはその日の決行を中止することも考えたかもしれません」

P「ですが、なんとか俺たちが帰ってくる前に春香を帰宅させることに成功します」

P「千早のいるスタジオからは社長室のほうはよく見えませんし、音も届きません」

P「さらに、千早の集中力を考えれば外部の出来事はほとんど悟れらないでしょう」

P「5時頃に春香を宿題を理由に帰宅させてから、あなたはついに犯行に移りました」




95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:57:02.35 ID:jTF1+5pn0
P「俺は社長を単なる被害者だと思い込んでいたので、鍵の問題はずっと残っていました」

P「ですから、たとえばこんな方法を考えました」

P「社長を殺す前に鍵を預かり、殺した後に外から施錠する」

P「そして翌朝、警察に確認される前にこっそり鍵を元の場所に戻しておく」

P「少し違いますがこれは以前、春香が思いついたものです」

P「ですがこの方法はあの状況だとまず無理でしょう」

P「社長はうつ伏せに倒れていましたから、鍵をきちんと首にかけるのは一苦労です」

P「そもそも、第一発見者は俺ですから、その時に鍵がないことに気づかれてしまうかもしれません」

P「他には朝、誰よりも早く来て鍵を戻し、時間を置いて改めて出勤するというのも考えました」

P「しかし俺が来たとき社長の遺体はドアをふさぐように横たわっていましたから、それもなかったのでしょう」




96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/09(土) 23:59:25.32 ID:jTF1+5pn0
P「ですがこんなややこしくて危険なことをしなくても、もっと単純な方法がありました」





P「小鳥さんが社長を刺して部屋の外に出て、社長自身が絶命する前に内側から鍵を閉める」





P「これだけで、あの状況が再現できるんです」

P「中には部屋の鍵を身につけた死体、窓とドアからは出られない事実上の密室という状況をです」




97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:00:39.41 ID:kf81cEce0
P「もし社長が力尽き鍵を閉めることが出来なかったら、小鳥さんが第一発見者になる予定だったんでしょう」

P「マスターキーを借りてから、それを使って開けたのだと主張すればいいだけですから」

P「実際には、社長が最期の力を振り絞り、鍵を閉めてから息を引き取ったので、その必要はありませんでした」




98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:02:04.70 ID:kf81cEce0
P「ここまで分かれば、犯人はほとんど特定できました」

P「ですがあの日、あの時間、誰にも見られずに社長室に出入りできた人物がもう一人いました」

小鳥「それは…うかつでしたね」

P「ええ…あなたたちは事務所の他の誰かが疑われることは避けたいと考えていたはずです」

P「確かに、最も犯行が容易でかつ、社長の共犯者として最適な人材といえば小鳥さんでしょう」

P「この理由で9割がた小鳥さんが犯人だと考えました」

P「しかし、小鳥さんのミスにより、ある人物が残り1割の可能性を背負ってしまったんです」

P「それは…」

小鳥「千早ちゃんですね」

P「はい」




99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:03:48.35 ID:jTF1+5pn0
小鳥「私はあの日、社長を殺した後に緊張のせいかひどく喉が渇いたんです」

小鳥「だから、千早ちゃんを一人残して近くのコンビニに飲み物を買いにいってしまったんです…」

P「俺たちが帰ってくる直後に戻ってくるという間の悪さもありましたね」

小鳥「今思えば軽率な行動でした、私が席を外したせいで千早ちゃんのアリバイがなくなったんですから」

P「流石の美希も、どちらが犯人なのかの断定までは出来ませんでした」

P「圧倒的に小鳥さんのほうが疑いが強い、しかし千早にも犯行が可能だったからです」




101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:06:24.67 ID:jTF1+5pn0
P「ですが美希の知らない手がかりが、この最後の判断を可能にしてくれました」

P「小鳥さんがコンビニに行っているすきに一連の行動を起こし、スタジオに戻る」

P「確かにここまでは可能です」

P「しかし、ここまでなんです」

小鳥「どういうことですか…?」

P「あの日、千早はカバンを持ってきていなかったんです」




102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:08:32.64 ID:kf81cEce0
P「犯行に使われたのは大型の刃物でした」

P「それだけでなく、返り血を防いだり拭いたりするようなものが必要だったでしょう」

P「それらを隠す場所が、千早にはなかったんです」

P「美希は途中で帰宅しましたから、このことを知らなかったんでしょう」

P「いつも身軽な千早といえども、カバンを持ってこない日というのは稀ですから」




103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:11:07.82 ID:kf81cEce0
P「俺と小鳥さんと千早の三人で7時頃に事務所を出るとき、小鳥さんはカバンに入れて証拠品を持ち去った」

P「おそらく、それらはもうとっくに処分し終わったのでしょう」

P「それから事務所には翌朝に俺が来るまで誰の出入りもなく、社長の死体があるだけでした」



P「これが、あの日765プロで起こったことの全てです」

P「今思えば、あの日の仕事量が妙に少なかったのもあらかじめ仕組んでくれていたんですね」

P「帰宅時間が死亡推定時刻を越えてしまうと、外部犯の可能性は極めて少なくなり内部の人間が疑われてしまいますから」




104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:13:02.22 ID:kf81cEce0
小鳥「…凄いですね、プロデューサーさん」

P「採点はどうですか?」

小鳥「そうですね…、一つだけ違いますから95点です」

小鳥「確かに、春香ちゃんと千早ちゃんがあの時間に事務所にいたのは予定外でした」

小鳥「けれど、私が殺人犯になる前の最後のひと時に過ごした春香ちゃんとの時間」

小鳥「私はその最後の時間を、ほんの少しだけですが犯行のことを忘れて楽しむことが出来ました」

小鳥「ですから、あの日の春香ちゃんは決して邪魔者ではなく、私にとっての恩人だったんです」

P「…春香も、もっと小鳥さんと話がしたいと言っていましたよ」

小鳥「そうですか…、私は幸せ者ですね」




105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:15:03.15 ID:kf81cEce0
P「…それじゃあ、『どうして』社長を殺したか聞かせてくれますか?」

小鳥「はい、でもちゃんと信じてくださいね?」

P「ええ、もちろんです」

小鳥さんはコーヒーを一口だけ飲んだ




107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:17:20.19 ID:kf81cEce0
小鳥「社長は、絶望していました」

小鳥「生きる意志も、アイドル達を育てる情熱も失ってしまった」

小鳥「時には自殺まで考えたと…」

小鳥「でもそんなことをしたらアイドル達へのダメージはきっと大変なものになります」

小鳥「彼女たちが彼女たちを責め、そして世間が彼女たちを責めるでしょう」

小鳥「みんなの未来を閉ざしたくはない、その思いだけで社長は死なずに過ごしていました」

小鳥「そして自分の命を絶ち、みんなをアイドルとして飛躍させる」

小鳥「そんな、自分にとって一石二鳥の方法を社長は考えつきました」




108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:18:29.34 ID:kf81cEce0
小鳥「結果的に、社長の作戦は成功しました」

小鳥「警察は外部の犯行だと思っていますし、みんなの知名度も遥かにアップしましたから…」

小鳥「何より、自殺より他殺のほうが、みんなにとって気が楽ですからね」

社長の俺達への配慮は、嫌というほどに伝わってきた

自殺や内部犯ではないと見せかけたこと、自分が事務所にいないと思わせたこと
瀕死の状態で鍵を閉めたこと、カラスに集られようが社長室の窓を開けておいたこと

これらがなければ、警察の目はこちらを向いていたに違いない
そして、アイドル達も疑心暗鬼になってしまっていただろう




126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:39:51.00 ID:kf81cEce0
小鳥「そして、その実行役として私を選んだんです」

小鳥「私は驚きました、そこまで思いつめていたなんて…」

小鳥「最初にそのことを頼まれたときはもちろんお断りしました」

小鳥「今は辛くても、きっと明るい未来がまっています、と」

小鳥「でも社長は、もう死ぬことを決心しているようでした」

小鳥「私は、そんな社長をみているのがとても辛かった」

小鳥「そして、ついに引き受けてしまったんです…」

P「それなら、せめて俺にやらせれば…」

小鳥「きっと、付き合いの長い私のほうが頼みやすかったのでしょう」

P「…」

小鳥「それに、プロデューサーさんはお芝居がへたっぴですからね」

P「…確かに、小鳥さんの演技は上手でしたね」

P「上手すぎて、最後まで信じられませんでしたよ」

小鳥「…社長は、最後まで私に謝っていました」

小鳥「そして私が社長を刺した時には『ありがとう』…と」




127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:42:33.84 ID:kf81cEce0
春香『あっ、もしかしたらその二つ以外にも動機ってあるんじゃないでしょうか?』

P『その二つ以外?』

春香『はい、その人が嫌いだからでもなく、何か欲しい訳でもなくて…』

P『うーん…、ちょっと俺にはそれ以外の理由は思いつかないな』

春香『えへへ、私もよくは分からないんですけど…』


そうか、春香はこのことを言っていたのか

嫌いだからでもない
欲しいからでもない

相手のための殺人があるとは、思わなかった




131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:46:02.81 ID:kf81cEce0
小鳥「はい、これで私の話はおしまいです」

小鳥さんは涙を拭いて、そう言った
時刻はとっくに0時をまわっていた

小鳥「本当に、信じてもらえなくても仕方ないんですけど…」

P「信じますよ」

小鳥「…あの、プロデューサーさん、やっぱり私を警察に突き出しますか…?」

P「そんなことはしません」

P「小鳥さんと社長の苦労がパーになってしまいますからね」

小鳥「ありがとうございます…」

小鳥「でも…、765プロの事務員は辞めようと思うんです」

小鳥「事件が終わったらすぐ辞めようと思ってたんですけど、流石に怪しすぎるかなって…」

P「行くあてはあるんですか?」

小鳥「いえ…、しばらくは実家でのんびりしようかと思っています」

P「小鳥さん、あなたは確かに殺人犯ですが大切な765プロの仲間です」

P「休職扱いにしておきますから、気が向いたらいつでも戻ってきてください」

小鳥「…あ、ありがとうございます…!」




132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:49:23.53 ID:kf81cEce0
【遺体が発見されて二ヶ月と一日・AM11:30・事務所内】

美希「おはようなの、ハニー」

P「もう昼だよ」

美希「ハニー、なんだか嬉しそうな顔してる」

P「ああ、やっと探偵ごっこが終わったからな」

美希「やっぱり小鳥が犯人だったの?」

P「ああ」

美希「じゃあ小鳥、タイホされちゃうの?」

P「俺と美希が黙っていれば捕まらないさ」

美希「…いいの?それで」

P「美希はどう思う?」

美希「んーとね、ミキ的には人を殺すのはいけないと思うけど、小鳥にはタイホされてほしくないかな」

P「うん、それでいいんじゃないかな」

美希「ハニーもそう思う?」

P「ああ、今回の事件の一番の被害者は小鳥さんだからな」




134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:51:16.75 ID:kf81cEce0
春香「あのー、プロデューサーさん、今日は小鳥さん来ていないんですか?」

P「今日からしばらくお休みする予定だよ」

春香「あれ、そうなんですか」

P「もしかしたらもう戻ってこないかもしれない」

春香「ええー、嘘ですよね!?そんなの嫌ですよう!」

美希「そうなの!小鳥がいないとミキとっても困るの!」

P「二人とも、小鳥さんに765プロにいてほしいか?」

春香「そんなの当然じゃないですか!」

美希「うん、当たり前なの!」

春香「プロデューサーさんもそう思いますよね!?」

P「うん、そうだな…」

P「それじゃあ、今度『みんな待っています』って伝えておくよ」

春香「はい、お願いしますね!」

P「ああ」




136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/10(日) 00:54:02.55 ID:kf81cEce0
春香「ところでプロデューサーさん」

P「ん?」

春香「今日は、タバコ吸わないんですか?」

P「ああ、今日から禁煙だ」

おわり