1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:25:02.07 ID:RHOYiscI0

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:25:49.16 ID:RHOYiscI0

ぷ「ぁんおいーっとりぃっちょいなちょいいなっと」

???「す、すみませーん……」

ぷ「おう? どしたい嬢ちゃん、高木の旦那に用かい?」

???「そそ、その、その、えっと」

ぷ「おっといけねぇ、まずは目を閉じて深呼吸しねぇ。ほれ吸ってー、吐いてー」

???「すーう……はーあ……あ、あの、この間の『あいどる』」

ぷ「嬉しいねぇ観てくれてたのかい! どうだった三人の歌と踊りは!? っとと旦那に用事だったか、おうい高木の旦那ァ!」

???「ひ、ひぃん!?」

高木「なんだい、そんな大きな声を出して。私にお客かい?」

ぷ「そうそう、こちらのお嬢ちゃんが、ってあれ? どこ行きゃあがった?」

高木「誰もいないじゃあないか、『らいぶ』が終わって人心地ついたのは分かるがしっかりしておくれよ?」

ぷ「へ、へぇ、すいやせん」


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:27:08.64 ID:RHOYiscI0

高木「ぷろ、おういぷろ!」

ぷ「へぇ、なんでしょう」

高木「なんでしょうじゃあないよ、なんだいこれは」

ぷ「へぇ、多分これは穴でございましょうねえ」

高木「バカ、そういうことを聞いているんじゃあないよ。どうして私の庭に穴が空いているのかと聞いているんだ」

ぷ「はは、旦那もお人が悪い。こんな穴、誰かが掘らなきゃあ出来ゃあせんよ」

高木「ぷろ。お前、さっきまで庭にいただろ」

ぷ「ええいました、縁側で音無さんの茶ァ飲んでまして。春香の作る団子がまぁ美味くてですね」

高木「どうして穴を掘るのを止めず黙って見てたんだい」

???「あ、あのぉ……」

ぷ「見てませんよ俺ァ空を眺めながらお茶を」

高木「だからそうじゃないよバカ。穴を掘っている人をどうして止めなかった? 危ないだろうこんな穴」

???「うう、すみません~……」

ぷ「へぇ、と言われても今しがた旦那を呼ぶまでありゃあせんでしたが」

高木「何、今の今までなかったのに急に穴が空いたのかい?」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:30:23.03 ID:RHOYiscI0

???「ご、ごめんなさい~!」

高木「おや?」

ぷ「あん? ってさっきのお嬢ちゃんじゃねぇか、どうしたそんな穴に嵌まっちまって」

高木「だから言ったろう、こういう穴は危ないと。大丈夫かね? どれ、私の手に掴まりなさい」

???「だだだ大丈夫ですぅ、一人で出られます!」

高木「そうかい? それならいいが……お前さん、私に用があるらしいね。今日はどうしたね?」

ぷ「それがあの『らいぶ』を観に来てくれたってんでついさっき例の言葉を」

高木「お前は黙ってなさい。さ、言ってごらん」

???「あの、この間の舞台を見てわ、私も『あいどる』になりたいと思って、それで」

高木「ほう、『あいどる』にか。聞いたかいぷろ、嬉しい話じゃあないか」

ぷ「ええ、こいつぁ目出度い。お嬢ちゃん、ようこそ『あいどる』の世界へ……名前がまだだったな。俺ァぷろでゅーさーってんだ」

高木「呉服屋の隠居、『あいどる』の頭を務めている高木順一郎です」

雪歩「大工の娘、は、萩原雪歩ですぅ!」

ぷ「おう、良い元気だねぃ。これから一つよろしくいこうじゃねぇか」

高木「うむ。よきかな、よきかな」


8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:33:30.24 ID:RHOYiscI0

ぷ「んじゃあ雪歩、これからはこいつらと一緒に稽古に励んでくんな。お前ェらもよろしくな」

雪歩「は、萩原雪歩ですぅ。よよ、よろしくお願い、します……」

春香「天海春香です、よろしく」

真「ボクは菊地真といいます。これからよろしくお願いしますね、雪歩さん」

響「二人とも固いぞ。はいさい、自分は我那覇響! 仲間なんだからデスマスなんて抜きでやっていこうな、雪歩!」

雪歩「ひぅ!? は、はいぃ……」

春香「あはは、響の言う通りだね。って緊張してる? 大丈夫、お稽古は苦しいけどその分舞台は楽しくて気持ちいいから!」

真「響が大きい声出すからびっくりしちゃったんだね。大丈夫?」

雪歩「あ……は、はい」

響「なんだよー、二人が元気ないから自分が頑張ったんだぞ。感謝してよね!」

真「はいはい、ありがとうありがとう」

響「うがー! 心がこもってないぞー!」

ぷ「いつまでくっちゃべってやがんでぇ、さっさと道場に行ってきな!」

春香「はーい」


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:37:30.55 ID:RHOYiscI0

ぷ「お、四人とも道場稽古は済んだみてぇだな」

春香「はい、そりゃもう今日もみっちりと扱かれまして」

真「春香も随分慣れてきたよね。最初は今の雪歩くらいにふらふらだったけど」

ぷ「肩貸してもらってるみてぇだが大丈夫なのかこりゃあ?」

雪歩「大丈夫、ですぅ……私は変わるんですぅ……」

響「さっきからうわ言みたいにこればっかりさー。あんまり大丈夫じゃない気もするぞ」

真「何、すぐに慣れるよ」

ぷ「励んでるみてぇで何よりだ。よぅし、ここは俺が饅頭でも奢ってやるよ、ついてきな」

春香「わぁ、ありがとうございます!」

真「ありがとうございます。聞いてた、雪歩? また少し歩くよ」

雪歩「変わるんです……うぅ」

響「本当に大丈夫なのかなこれ」


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:40:41.67 ID:RHOYiscI0

ぷ「あいつらしこたま食いやがって、すっかり財布が軽く……あん? おう坊さんよう、富籤なんぞやってんのかい。老体でご苦労じゃねぇか」

坊主「この間雷が落ちまして、お堂の一部が焼けてしまったのです。直す金子がないとお上に相談しましたらば、富籤をと」

ぷ「富籤、富籤ねぇ……一枚買うにも結構な値段したよなぁこりゃあ?」

坊主「その分当たった時は大きゅうございます故」

ぷ「ってもそうそう当たるもんでもねぇんだろ?」

坊主「神のみぞ知る所にございます」

ぷ「なんでぇまどろっこしい言い方しやがって。それで、そのお前さんとこの神様ってなぁ何の神様だい?」

坊主「はい、遠く大和の国より社を分けて頂き宮比神様を」

ぷ「名前を言われたって分かんねぇよ、何のご利益があるんだって聞いてんでい」

坊主「宮比神様は天照大神様が岩戸に隠れられた際、その類稀なる歌と踊りにて居並ぶ神々を」

ぷ「分かりやすく言ってくんな」

坊主「芸能の神様にございます」


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:43:57.62 ID:RHOYiscI0

ぷ「芸能たぁなんとも具合が良いじゃねぇか、そうかいそうかい芸能の神様かい」

坊主「ええ、それもとびきり見目麗しい女神様だったとか」

ぷ「そいつぁ縁起がいいじゃねぇか、今の俺にゃぴったりだ! こりゃ一つ運試しと行くしかねぇな、おう一枚くんな!」

坊主「ありがとうございます、ではこちらを」

――――

高木「で、これを買ってきたのかい?」

ぷ「へぇ、神棚に飾っておいておくんなせぇ」

高木「ぷろ、お前も少ない稼ぎでよくやるねえ。よしよし、そういうことなら飾っておこう」

ぷ「もしこいつが当たった暁にゃあ、もっとあいつらに良いもん食わせてやりてぇもんですな」

高木「籤なんぞそうそう当たるもんでもないよ? まあこれは賽銭代わりに買ったということで、地道に頑張ろうじゃあないか」

ぷ「へい!」


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:48:10.84 ID:RHOYiscI0

ぷ「ええと、次ァ太鼓衆に手紙を届けてそんでもって笛の兄さん方にも挨拶周りーっと。おっと、済まねぇ怪我ァねぇかい?」

???「はい! 品物も無事だし問題ないかなーって!」

ぷ「そいつぁ良かった。しかし女だてらに棒手振りたぁ、また中々」

???「このご時世、弟妹たちにおまんま食べさせるには男だ女だ言ってられませんから!」

ぷ「ははぁ、随分と気持ちの良い娘さんだ。その細腕でどうしてどうして力もあるようだし……ふむ、あんた名はなんてぇんだ?」

やよい「姓は高槻、名はやよい。お兄さん、お近付きに良かったら一本いかがですかー?」

ぷ「大根かい? これも何かの縁かね、一つもらうよ」

やよい「うっうー! ありがとうございまーす! はい、たーっち!」


19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:51:13.85 ID:RHOYiscI0

ぷ「お、お前さん『はいたっち』知ってるのかい」

やよい「お得意様から聞いた異国の風習です。私なんだか気に入っちゃって!」

ぷ「なるほどねえ、ところでさっきの『うっうー』ってな何だい? それも異国のかい?」

やよい「あ、これはただの口癖です。気にしないでくーださい!」

ぷ「そうかそうか、ともかく大根ありがとうよ。また見かけたら買わせてもらわぁ」

やよい「はい、ありがとうございます!」

ぷ「ああっとそうだそうだ、忘れるとこだったい。俺ァぷろでゅーさーってんだ、もしかしたら長い付き合いになるかも知れねぇからよろしくな」

やよい「? はい、よろしくです」


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:55:07.94 ID:RHOYiscI0

ぷ「ただ今帰ぇりました!」

春香「お帰りなさい、ぷろさん」

ぷ「おう春香、歌の稽古も頑張ってたみてぇだな。ま、あれだけ饅頭食ったんだ、頑張ってもらわにゃ困る。ああ音無さん、こいつを」

小鳥「おや、大根ですか」

ぷ「へぇ、今日はちょいと面白ェ娘に会いましてね。その挨拶代わりに一本買いまして」

小鳥「その子も『あいどる』の才がありそうなんですか?」

ぷ「高木の旦那で言うとこの、てぃんと来たってやつでさぁ。ひょっとすると今一盛り上がりに欠けるうちの舞台に一番必要かも知れねぇんで」

春香「ぷろさん、随分と高くその子を買ってるんですねぇ。私たちだけじゃやって行けないって言いたいんですか?」

ぷ「なんでい、焼き餅妬いてんのかい?」

春香「そ、そんなんじゃありません!」

ぷ「いやいやお前ェの気持ちも良ぅく分かる。雪歩も頑張っちゃいるが、ずっと頑張ってきたお前ェらから見りゃ下手も下手だ」

春香「そこまでは言いませんけど……」

ぷ「ぽっと出の、それも下手っぴと同じ舞台とあっちゃお前ェらも面白くねぇやな。それにそもそも、ばらばらの出来じゃとてもお客にゃ見せらんねぇ」

小鳥「言い方は悪いですけれど、そうなんですね」


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 21:58:47.64 ID:RHOYiscI0

春香「でもここに入った以上はいずれ横並びで一緒に舞台に立ちますし」

ぷ「おう、そこよそこ。俺ァ何もまとめてわらわらと舞台に上がる必要はねんじゃねぇかと思ってな」

春香「どういうことですか?」

ぷ「いくつか『ゆにっと』を作るのよ。四人、件の子も含めて五人か」

春香「三人組と二人組に分けて『らいぶ』をする、ってことですか?」

ぷ「半分正解ってとこだな。五人まとめて立つ舞台も勿論用意する。が、基本は三人と二人に分けてそれぞれ別の舞台に立つわけだ」

小鳥「春香ちゃん真ちゃん響ちゃんと、雪歩ちゃん新入り予定さんに分けるんですか」

ぷ「今のところは。後ろの二人組の実力が春香たち三人に追いつきゃまた組み方も広がりまさぁ。その内これを十人、十五人と増やして……」

春香「そんなに増えるんですか!?」

ぷ「遠い異国じゃ四十八人なんて『ゆにっと』もあるらしい。前まではそんな無茶なと思ってたが、最近はそれもそれで悪くねぇと思ってな」


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:01:33.47 ID:RHOYiscI0

小鳥「でもそんな大人数だと、ぷろさん一人じゃ面倒を見切れないって言ってませんでしたか?」

ぷ「そこはそれ、何も一人で全部やるこたぁないと思いましてね。いずれ人を増やして互いに助けつつ回していこうと、こういうわけです」

春香「私は、ぷろさんじゃなきゃ……」

ぷ「あん? なんでい、もごもごと歯に詰まったような言い方しやがって。言いたいことがあるならはっきり言いな」

春香「な、なんでもありません!」

ぷ「そうかい。ま、今はそんな人を増やす余裕もないしまだまだ先の話でさぁ」

小鳥「なるほど。旦那様にいつも叱られてばかりと思っていましたけど、色々考えてたんですねぇ」

ぷ「……音無さん、大分砕けてきやしてませんかい?」

小鳥「ふふ、初めて会った頃は緊張してたんです。素を見せられる仲になったということですよ」

ぷ「はぁ、音無さんにゃ敵わねぇなぁ」


23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:04:16.33 ID:RHOYiscI0

春香「ところで、その新入り予定さんはどこの誰なんです?」

ぷ「なんつったかな、確か……姓は高槻、名はやよいっつったか」

小鳥「あら、ガラクタ長屋の貧乏小町ですか?」

ぷ「? なんですかいそりゃあ」

春香「知らないんですか? 川向こうの長屋の名物娘と言いますか」

小鳥「大家族を養うのに苦労はしてるみたいですけど、花の咲いたような笑顔が評判だとか。それで付いた渾名がガラクタ長屋の貧乏小町です」

ぷ「身なりからどうやら中々暮らし向きゃ良くなさそうだったが、そうかい、そんなに有名な子だったかあ」

小鳥「聞けば一日中働いて家族の為に稼いでるとか。未だ安定して依頼のない『あいどる』稼業に引き込むには少し酷かと」

ぷ「働き詰めと『あいどる』じゃどうしたって稼ぎは減るってもんか。ううん、無理に誘えばあの子の家族が餓えちまわぁなあ……」

高木「おや、寄り集まってなんの相談だい?」

ぷ「ああ、旦那。実はかくかくしかじかでして」

高木「ううむ、それは弱ったねえ。ぷろ、お前なんとか出来ないかね?」

小鳥「あら、旦那様も貧乏小町を入れるのに賛成ですか?」

高木「実はついさっき道端で草履が切れてね、困っていたところに彼女が通りかかってささっと直してくれたんだよ。実に見所のある娘さんだ」


26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:07:14.11 ID:RHOYiscI0

春香「噂通り、本当に良い子なんですねぇ。ぷろさん、何か名案はありませんか?」

ぷ「ううん、なんとか……なんとかったってこいつばかりはなんとも……」

高木「一人だけ色を付けて渡す訳にもいかない、か。私もあの子にはてぃんと来るものがあったんだがねえ」

春香「私はそれでも構いませんけど、多分その子は嫌がるんじゃないですか?」

高木「だろうねえ。盗みも働かず日が上って暮れるまで働くような子だ。そういうのは好かんだろう」

ぷ「すいやせん旦那……俺もどうにかしたいのはやまやまなんですが」

高木「気にするな、ぷろ。お前さんは今でも十分やってくれているよ、いずれ運も巡って来るさ」

ぷ「へぇ、ありがとうございます……俺ァちょいと出てきます、貧乏小町の代わりってんじゃないですが何にせよ演者は多い方がいいと思いますし」

高木「おお、『すかうと』というやつだね。頑張るのもいいが例の辻斬りの件もあって最近は物騒だ、気を付けるんだよ」

小鳥「ご飯には遅れないように戻って来てくださいね」

春香「行ってらっしゃい、ぷろさん」

ぷ「辻斬りの方はもう心配いらねぇと思いますが……へぇ、それじゃあ行ってきます」


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:10:40.83 ID:RHOYiscI0

ぷ「とは言ったものの……どうしたもんかねぇ。雪歩も周りとの実力差に悩んでる節もあるみてぇだし、早ェとこ磨き合える相手を見つけてやりてぇんだが」

???「あのぅ、この辺りに高木様のお屋敷があると聞いたのですがご存知ありませんか?」

ぷ「あん? 高木の旦那なら俺の世話になってる、おお!?」

???「あ、あら? 驚かせてしまいましたか? すみません、こな見苦しい胸は生まれつきの」

ぷ「ああいや、見苦しいなんてとんでもねぇ。眼福眼福……じゃなかった! 旦那の家ならすぐに案内しまさぁ、何のご用向きで?」

???「ええ、実は衆目を集める『あいどる』という仕事があると聞いて、私もその一人になれたらと」

ぷ「そいつぁ願ってもねぇ話で! 丁度人を増やそうなんて話をしてたところで……っといけねぇ、名乗りがまだでしたね。俺ァぷろでゅーさーってんです」

あずさ「私はあずさ、三浦をやっております。して、高木様のお屋敷はどちらに?」

ぷ「ああ、そうだったそうだった。何難しいこたぁござぁせん、この道を真っ直ぐ行くと大通りに出ますんでそこを右に曲がった突き当たりでさぁ」

あずさ「ご丁寧にありがとうございます、早速訪ねてみます」

ぷ「何、礼は案内を終えた後ってありゃ? もういねぇ、随分と足の早い姉さん……なんて縁起でもねぇな、人気ってのは水物だってのに」


30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:14:00.99 ID:RHOYiscI0

ぷ「気晴らしに外出てみたが、あずささんもうちに入るってんだし問題解決だな。なんたってあの張った乳は……っと、ただ今帰りました!」

小鳥「おかえりなさい、ぷろさん。良い人は見つかりましたか?」

ぷ「ええ、ええ。期待の新人と言いますか、来ましたかい例の迷子さんは」

小鳥「迷子さん? いいえ、誰も来てはいませんけれど……」

ぷ「おっかしいな。いやね? さっき外へ出た時にこの屋敷を探してるって姉さんがいまして、それも『あいどる』志望だってんで道を教えたんですが」

小鳥「この辺りはそう入り組んでいる訳でもないですし、確かにおかしな話ですね……さては狐にでも化かされましたか?」

ぷ「はは、かも知れませんね。だとしたら随分と子供の狐でしょうな」

小鳥「どうしてそう思うんです?」

ぷ「化けた姿がびっくりする程の乳だったんでさぁ、ありゃ母ちゃんの乳がまだまだ恋しい子狐の仕業に違ぇありません」

小鳥「おや、胸の大きな女はお嫌いですか?」

ぷ「いやいや、大歓迎……って何を言わせるんですかい」

小鳥「ふふ、そんなに赤くならなくてもいいじゃあありませんか。まだご飯まで少しありますから頬の火照りを冷ましてきたらどうです?」

ぷ「へぇ、そうさせてもらいまさぁ……まさか本当に狐ってわけでもなかろうし、ついでに一回り探してくるかね」


32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:18:37.87 ID:RHOYiscI0

ぷ「いかんいかん、乳の事ばかり考えちまう。これじゃあ間違いが起きるってもんよ……いや、まさか本当に狐なわきゃねぇだろうが」

???「んっふっふ~、なんだか助平な顔の兄ちゃんがいるねい」

???「あんなに鼻の下伸ばして、きっとぱいぱいで頭がいっぱいなんだねい」

ぷ「な、誰でい! 人のことを助平だなんだと抜かしゃあがって!」

???「亜美、兄ちゃんのこと助平だなんて言った?」

???「真美、兄ちゃんのこと助平だなんて言った?」

ぷ「な、なんだぁこりゃ? 同じ顔が二つも並んでやがる……?」

???「すっごくびっくりちてるねい?」

???「何が起きてるんだって顔だねい?」

ぷ「ええい、今度こそこりゃ本当に狐の仕業か!? やいお前ェら、俺なんかを化かしたって銭も食いもんも取れねぇぞ!」

???「んっふっふ~!」

???「んっふっふ~!」

ぷ「く、来るな! こっちに来るんじゃ、な、ああ!? ぅわっぷ!」

???「兄ちゃん、滑って川に落っこちるとか面白すぎっしょー!」

???「すっかりずぶ濡れだねい。 じゃあね兄ちゃん、また遊んでね!」


33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:23:00.20 ID:RHOYiscI0

小鳥「あら、今出て行ったと思ったらもう帰ってきたんで……ええ!?」

ぷ「へぇ、ただ今戻りました……ぶえっきし! ちきしょーめい!」

小鳥「どうしたんですかそんなずぶ濡れで! あ、もしかして火照りを冷ますって額面通りに?」

ぷ「まぁ、そんなところでさぁ。ところで音無さん、亜美だの真美だのって名前に聞き覚えはありませんか?」

小鳥「ええと、隣町の双海診療所の一人娘の名前がそんなような名前だったと思いますけど」

ぷ「……一人娘? 姉妹、とかじゃあなくですか?」

小鳥「ええ、確か一人娘だったと。そんなことより、すぐに拭く物持ってきますね。風邪でも引いたら大変」

ぷ「ああ、すみません……はてさて、どうにもおかしな事ばかり起きやがるな。近ェ内にあの坊主のとこでお祓いでもしてもらうか」


34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:28:26.72 ID:RHOYiscI0

ぷ「おうい、坊さん、お坊さんよう。白い髭のお坊さんよ」

坊主「おや、先日の。富籤の当選番号を見に来られましたか?」

ぷ「それもあるがな、ちょいとお祓いをお願いしたいんだがいいかい?」

坊主「お祓いですか。構いませんが、お祓いをしたところで今更籤の番号は変わりませんよ?」

ぷ「そういうことじゃねぇんだよ、いいからやってくんな」

坊主「そうですか。では、こちらに……」

――――

坊主「以上です。もう楽にしてくれても構いませんよ」

ぷ「おう、ありがとよ。んじゃまぁ外れちゃいるだろうが籤の番号見て帰……あん?」

坊主「どうしましたか?」

ぷ「いや、ちょいと……っかしいな、どこに……確かにここへ……」

坊主「もし、その袖の穴はいつから?」

ぷ「……っかー! なんてぇこったい!」


35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:33:36.03 ID:RHOYiscI0

坊主「今更言ってもやる方のない話ですが、籤に書かれていた番号は覚えていますか?」

ぷ「買った帰ェりに穴の開くほど見たんだ、忘れようもねぇよ。七六五の二六でい」

坊主「少しお待ちを……おお、惜しいことをされましたな。五十両の当たり籤です」

ぷ「本当かい!? ってこたぁ何か、俺ァみすみす、五十両をどぶに捨てたってのかい!」

坊主「そう腐らずに。きっと貧しさに喘ぐ者の手に渡り、その徳は今に貴方自身にも返ってきましょう」

ぷ「俺も過ぎたことをいつまでも引っ張る気はねぇがよ、ねぇが……なぁ、籤には名前も書いてあったんだ、どうにかならねぇかい?」

坊主「そう申されましても。疑うわけではありませんが、やはり金子の絡む話。当たり籤を持ってきた者が買った者とする外ないのです」

ぷ「そりゃそうか、そうだよな。よし、分かった。俺も男だ、このこたぁ綺麗さっぱり忘れるとする。お祓いありがとよ、邪魔したな」

坊主「いえ、また困ったことがあった際にはお立ち寄りください。孫娘共々、お力になれることがあれば微力ながらお助けいたします」

ぷ「なんでい、一人身仲間かと思ってたが違ったのかい。まぁいいや、また暇があればくらぁ」

坊主「はい、お気をつけて」


36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:36:55.50 ID:RHOYiscI0

???「はて、お客でしたか?」

坊主「おお、帰られましたか。いや少し変わった男でして、どうにも奇怪な縁に恵まれた生まれというか」

???「爺やがそこまで言うほどの? わたくしも、一目会ってみたいものですね」

坊主「いえ、もしかしたらもうどこぞかですれ違っているやも知れません」

???「なんと」

坊主「それより、お嬢様。首尾はいかがですかな」

???「先日捕らえた一振り以後、他は尻尾も掴めていません。未だ気配は色濃い故、恐らくこの町の近辺にはいるのでしょうが」

坊主「辻斬りの話もここ暫くは聞きません、警戒しているのでしょう……これはあくまで予感、というか老いぼれの勘ですが」

???「?」

坊主「あの男の近くにいれば、遠からず巡り会えるやも知れません。参考までに」

???「……ふむ、素性を調べておきましょう」

坊主「ともかく、そろそろお昼にしましょう。本日は大陸より『らぁめん』なるものが手に入りました。いかほど召し上がりますか?」

???「そうですね、今日は軽めに八人前ほど」

坊主「かしこまりました」


38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:41:12.99 ID:RHOYiscI0

???「はて、お客でしたか?」

坊主「おお、帰られましたか。いや少し変わった男でして、どうにも奇怪な縁に恵まれた生まれというか」

???「爺やがそこまで言うほどの? わたくしも、一目会ってみたいものですね」

坊主「いえ、もしかしたらもうどこぞかですれ違っているやも知れません」

???「なんと」

坊主「それより、お嬢様。首尾はいかがですかな」

???「先日捕らえた一振り以後、他は尻尾も掴めていません。未だ気配は色濃い故、恐らくこの町の近辺にはいるのでしょうが」

坊主「辻斬りの話もここ暫くは聞きません、警戒しているのでしょう……これはあくまで予感、というか老いぼれの勘ですが」

???「?」

坊主「あの男の近くにいれば、遠からず巡り会えるやも知れません。参考までに」

???「……ふむ、素性を調べておきましょう」

坊主「ともかく、そろそろお昼にしましょう。本日は大陸より『らぁめん』なるものが手に入りました。いかほど召し上がりますか?」

???「そうですね、今日は軽めに八人前ほど」

坊主「かしこまりました」


41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:47:11.86 ID:RHOYiscI0

ぷ「しかし高木の旦那にゃどう話したもんか……どやされやしねぇだろうが、その方が辛ぇよなぁ」

やよい「はくぅ~さぁ~あい~、はくぅ~さぁ~あい~」

ぷ「お、噂の貧乏小町。今日も棒手振りに精が出るじゃねえか。どうだい、儲かってるかい?」

やよい「はわっ!?」

ぷ「なんでい忘れちまったかい? なるほど、大根一本ほどの安い女じゃねってんだな? 商売上手じゃねぇかおい」

やよい「ご……」

ぷ「ご? ごじゃねぇよ、ぷだ、ぷ。ぷろでゅーさーってんだ、思い出してくれたかい?」

やよい「ごめんなさいー!」

ぷ「おおい、ちょっと! ちぇ、何も逃げなくたって良いじゃねぇか」


42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:52:28.43 ID:RHOYiscI0

ぷ「あんの坊主、さてはモグリだったか……? 全然厄が落ちてねぇような」

???「ええ、うむ。それではお大事に」

ぷ「あん? 何々、ふた、み、診療……双海診療所ってなぁここかぁ」

双海「うん? 確かにここは私、双海のやっておる診療所だが、何かご用か? それとも悪い所が?」

ぷ「悪い所と言やぁ運か頭かってとこだがそうじゃねぇんだ、お前さんとこの娘さんたちにちょいとな」

双海「……はて、言ってる意味が分からんな。うちの娘は一人っ子だが」

ぷ「その一人娘ってなぁもしかして名前は真美だとか亜美だとか、そんなかい?」

双海「おや、亜美の知り合いかな? 生憎今は読み書きの手習に出ていて」

ぷ「や、いねぇならいねぇで良いんだ。良いんだが、この間夜更けに道端でおかしなものを見てね」

双海「物の怪の類かね? そういう話も流行ってはいるが、幽霊の正体、見たり枯れ尾花と言った所だろう」

ぷ「確かに言われてみりゃあ、鏡でも置いてあって見間違えたのかも知れねぇな。いや、邪魔したな」

双海「……丁度患者も捌き終わった所だ、お茶でもどうかね。その話も少し気になる」

ぷ「そうかい? それじゃあ遠慮なく」


44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 22:56:19.64 ID:RHOYiscI0

双海「つまり、うちの娘は二人いて、いたずらで君を川に落としたと?」

ぷ「まぁ、そんなところでい。で、どう思うかね?」

双海「……はっはっは! おかしな話だな。疲れているんだろう? 目元も黒いししっかり寝てないのだな」

ぷ「確かに疲れてるっちゃ疲れてるが、それでもあんなにはっきり幻が見えるもんかい?」

双海「あれは本物だった、間違いない……幻を見た者は皆そう言う。先の枯れ尾花とかな」

ぷ「ふぅん、そんなものかい。なんだかタネが分かってみると、つまらねぇもんだな」

双海「疑問はなくなったかね? そろそろ娘の帰ってくる時間だ、改めて挨拶とイタズラの詫びをさせよう」

ぷ「ああ、構わねぇよ。っと、名乗りを忘れてたな。『あいどる』の世話を生業にしてる、ぷろでゅーさーってんだ」

双海「おお、君が噂の。うちの娘もあの『あいどる』とやらが好きでね。自分もなりたいと言い出す始末だ」

ぷ「あの時の感じを見るに、宅の娘さんを世話するにゃちぃと骨が折れそうだ」

双海「うむ、実の親である私でさえ手を焼いているからな」

ぷ「何を誇らしげに……ま、興味があるなら呉服の高木屋まで来てくんな、歓迎するぜ」

双海「そうだな、考えておくよ」

ぷ「おうよ。茶飲みの仲だ、遠慮はいらねぇってもんだ。それじゃそろそろお暇を……」

???「たっだいまー!」


45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:00:28.83 ID:RHOYiscI0

双海「おお、丁度良い所に帰って来たみたいだな。おうい、こっちに来て挨拶なさい」

???「どったのぱぱー? お客さん? って、あ! あの時の兄ちゃん!」

ぷ「おう、邪魔してるぜ。ええと、真美嬢ちゃん?」

???「あれ? ぱぱ、話したの?」

双海「なっ……いや、聞き間違えたんだよな? 亜美?」

亜美?「え……ああ! そそ、そうそう、亜美って言ったように聞こえたっぽいよ~!?」

ぷ「……」

双海「ど、どうされた? なんか顔色悪いっぽいが?」

亜美?「亜美は亜美だよー? 名前間違えるなんて、しし失礼っしょー」

ぷ「……いや、そいつぁ済まなかったな。どうにも頭がこんがらがって」

双海「うむ、ききっと疲れているんだそうに違いない今日はもう帰りなさいほら亜美もご挨拶を」

亜美?「またね兄ちゃんさいならさいならー!」

ぷ「おう、またな。『あいどる』の件、縁があればよろしく」


48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:04:13.16 ID:RHOYiscI0

双海「行ったか。さて、真美?」

亜美?「うあうあ~……夜なら酔っ払い以外出歩かないから、遊びに出てもいいよねって亜美が」

双海「二人とも後でお説教だ。それにしても……ばれたと思うか?」

亜美?「多分……」

双海「ううむ、ばれては仕方がないか。明日は高木屋に行って話をつけてくる」

亜美?「卵焼き? ご飯食べに行くの?」

双海「高木屋だ。お前たちの言っていた、『あいどる』の元締めがいる」

亜美?「じゃあ、『あいどる』になっていいの!?」

双海「違う、二度と関わらないでくれと言いに行く。強請り集りの類なら、私はこの手を汚してでもお前たちを守らねばならん」

亜美?「ぱぱ……」

――――

ぷ「やっぱりただの見間違いだったか。いやしかし、ぱぱだなんて洒落てんなぁ、流石ァ医者の娘だ」


50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:07:40.71 ID:RHOYiscI0

やよい「とぉ~ふ~う~うう~、とぉ~ふ~う~うう~」

ぷ「おう、一丁もらおうか」

やよい「はわっ!?」

ぷ「おっと今度は逃しゃしねぇ。何をそんなに怖がってんだい、何か粗相があったなら謝らせてくんなよ」

やよい「ご、ごめんなさいぃ……でもでも、私が捕まったら家族がぁ」

ぷ「まあまあまずは落ち着けってんだ、な? ほれ、吸ってー吐いてー」

やよい「すぅー……はぁー……」

ぷ「落ち着いたかい? で、捕まるだ何だって何の話でい」

やよい「えっと、私、拾って、それで、家族に楽させられるかなーって」

ぷ「それじゃ分かんねぇよ、拾ったってなぁ一体ェ何拾ったんだい?」

やよい「あの、その。これ、ですー」

ぷ「こいつぁ……富籤? それも俺の落とした富籤じゃねぇか。お前さんこれ、どこで?」

やよい「振り売りして回ってる時に、偶然……それであの! 届けなきゃって思ったんですけどお家を知らなくて」

ぷ「そんでもって、それが当たり籤だって知って良心が揺らいだのかい?」


53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:10:32.59 ID:RHOYiscI0

やよい「ごめんなさい! 今私が居なくなったら弟たちが、だからどうかお上にだけは!」

ぷ「おうおう、頭上げなよ。お前さん、これを金に換えることだって出来たのにしなかったな?」

やよい「それは、だって……名前のことでばれるかもって」

ぷ「なるほど。だが何の因果か結果的にお前さんは、ちゃんとこうして返してくれた」

やよい「うう……」

ぷ「なら、礼こそすれ奉行所に突き出すような真似しねぇよ、安心しな。拾ってくれたのがお前さんで良かった、ありがとよ」

やよい「ごめんなさいぃ……」

ぷ「ばっきゃろうめ、俺ァ礼言ってんだ。こういう時は、一言どういたしましてと、そう言やいいんだ」

やよい「どう、いたしまして……えへへ、私も、ありがとうございますー!」

ぷ「いやいや、こちらこそどういたしまして。それじゃあまた、と言いたいとこだが」

やよい「?」


54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:13:32.27 ID:RHOYiscI0

ぷ「大の恩人に、はいどうもと礼だけ言って帰すほど俺も落ちぶれちゃいねぇ」

やよい「あの、えっと?」

ぷ「お前さんは俺に返さなきゃ金に出来なかった。俺もお前さんに会わなきゃ籤の事は忘れてた。そこで、どうだい」

やよい「どうだいって何がですか?」

ぷ「おう、この籤と引き換える銭。これを俺たち二人で折半して、それで俺からの礼ってことにさせてくれねぇか?」

やよい「そ、そんな大金ダメですー!」

ぷ「なんでい、五十両全部欲しいってのかい? まぁ恩人様がそう言うなら仕方ねぇなぁ」

やよい「そ、そうじゃなくて」

ぷ「なら半分だ。大人しく受け取ってくんな」

やよい「は、はいぃ……あの、ありがとうございます!」

ぷ「いいってことよ。なら、改めて明日にでもあの坊主の所行って……ああ、そうだ」

やよい「?」

ぷ「お前さん、『あいどる』ってのに興味はねぇか?」


56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:19:08.09 ID:RHOYiscI0

雪歩「はぁ。このままじゃ真ちゃんたちに、きっと迷惑かけちゃう……」

響「雪歩? どうしたんだ、そんな暗い顔して」

雪歩「あ、響ちゃん……」

響「困ってるなら相談に乗るぞ。そうだ、お茶淹れて話そうよ。サーターアンダギー食べながらさ」

雪歩「あ、あの」

響「茶の間で待っててね、今朝作った奴持ってくから」

雪歩「……響ちゃん!」

響「何? 雪歩が大きい声出すなんて珍しいね」

雪歩「私、私、迷惑じゃないかな?」

響「迷惑? どこが、なんで?」

雪歩「その、お稽古の足引っ張ってるし……道場でも、泣いてばっかりで」


58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:25:57.08 ID:RHOYiscI0

響「雪歩はまだ歌も踊りも自分たちより下手だけど、稽古始めた時よりすっごく上手くなってるぞ?」

雪歩「でも……」

響「真の親父さんも長い間道場仕切ってるもん、泣く子も見慣れてるって言ってたさー」

雪歩「……響ちゃん。やっぱり私、『あいどる』向いてないのかなぁ」

響「うえぇ!? な、なんで急にそんな話になるんだ!?」

雪歩「響ちゃんは上手くなってるって言ってくれたけど、私、全然そんな風に思えなくて」

響「もしかして、自分たちに追いつけないのを気にしてるのか?」

雪歩「うん……」

響「そりゃ無理だぞ」

雪歩「っ……や、やっぱり、私」


59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:31:32.02 ID:RHOYiscI0

響「ああ! 泣かないでよ雪歩ー! 今のは違う、言い直すからちょっと待ってー!」

雪歩「う、うう……ぐす」

響「えっとね? 雪歩は自分たちより後から稽古始めたでしょ?」

雪歩「うん……」

響「大体三ヶ月ぐらい差があるから、ええと、道! 自分たちは先に道を進み始めて三十歩先にいるんだ」

雪歩「ぐすん、私は、追いつけないの?」

響「走ったら追いつけるかも知れないけど、自分たちも三十歩先で走ってるから普通は無理だぞ」

雪歩「うぅ、ひっく……やっぱり私なんてぇ……」

響「で、でも! 思いっきり走ったら追いつけるかも! いや、絶対追いつけるぞ!」

雪歩「そう、かな……」

響「うがー! 雪歩の悪い所は歩き出す前に迷う所! 変わるって決意して、ここに来たんでしょ!」

雪歩「う、うん……すごく不安だったけど、響ちゃんたちの舞台を見て、私もあんな風にって」

響「ならその勇気、もう一回見せてよ。じゃないと、このまま置いて行っちゃうぞ!」


61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:37:34.14 ID:RHOYiscI0

雪歩「お、置いて行かないでよぅ……」

響「じゃあ、『あいどる』続けよう! 雪歩もすぐ自分たちくらい上手になるぞ。自分、人を見る目はあるんだから」

雪歩「なれる、かな……私みたいなダメダメな子でも、あんな風になれるのかな……」

響「絶対なるの! カンペキな自分の見込みだから、間違いないぞ!」

雪歩「そう、だよね。なる、うん。私、『あいどる』続ける。同じ舞台に立てるくらい、上手になる!」

響「うんうん、良い顔してるぞ。不安になっても、自分たちが側にいるからなんくるないさー」

雪歩「ありがとう、響ちゃん。お陰ですごく元気になったよ」

響「雪歩が元気になって自分も嬉しいぞ。じゃあ、また歌の稽古の時にね」

雪歩「うん! あ、響ちゃん」

響「ん?」

雪歩「髪の毛に糸くずが……あれ? 糸って言うより動物の毛かな、これ?」

響「さ、さあどうだろうな!? それじゃあ自分急いでるから! あ、その毛はただの糸くずだから気にしないでね!」

雪歩「ひ、響ちゃん!? ……行っちゃった。どうしたんだろう?」


63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:44:32.07 ID:RHOYiscI0

ぷ「ただ今戻りましたぁっと」

やよい「お邪魔しまーす!」

雪歩「あ、ぷろでゅーさー……と、どちら様ですか?」

やよい「高槻やよいです! えっと、『あいどる』始めることになりました! よろしくお願いします!」

ぷ「っつぅ訳だ。よろしくやってくんな」

雪歩「は、はぁ……萩原雪歩です。一応、私も『あいどる』やってます」

やよい「うわー、じゃあ先輩ですね! 私のことはやよいって呼んでください、敬語もいりませんよ!」

雪歩「う、うん。じゃあ私も雪歩でいいよ。よろしくね、やよいちゃん」

やよい「うっうー! これからよろしくお願いします、雪歩さん!」

ぷ「よしよし、春香たちも互いに競い合って上達したからな。お前ェらにも、期待してるぜ」

やよい「はい、頑張りまーす!」

雪歩「は、はい! 頑張ります!」

ぷ「おう、雪歩もなんだか元気が良いじゃねぇか。その様子なら、心配いらねぇな!」

雪歩「はい……勇気を、思い出しましたから」

ぷ「? よく分からねぇが、ひとまずやよいを旦那のとこまで案内してやってくんな」


64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:50:29.82 ID:RHOYiscI0

高木「なるほど、暫くの家計の宛が出来たので我慢して来た分やりたいことをやれと、そうご両親が言いましたか」

やよい「はい! そういう訳で、これからよろしくお願いします!」

高木「実入りの少ない不安定な仕事ではありますが、こちらこそよろしくお願いします」

やよい「あ、頭を下げないでくださいー! 私の方が年下ですし、あうぅ、ぷろでゅーさー!」

ぷ「旦那、やよいもこう言ってるんですし、敬語なんてのは抜きに普通に接してやって下せい」

高木「そうかね? そこまで言うのなら……では改めてよろしく、高槻君」

やよい「はい! 一生懸命頑張りまーす!」

高木「困ったことがあったらいつでも私やぷろに相談してくれて構わないからね。ぷろ、ぷろや」

ぷ「へい、日課の説明やら『らいぶ』の説明やらしておきやす」

高木「うむ、よろしく頼んだよ……そうだ、音無君から最近夜の庭が騒がしいと言われたが、何か知らないかい?」

ぷ「庭? 特に変な感じはねぇが……分かりました、食後にでも調べておきやす」

高木「賊の類かも知れないからね、十分気を付けるんだよ」

ぷ「へい、心得て」


68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/27(木) 23:56:40.38 ID:RHOYiscI0

真「千早、いるかい?」

千早「どうしたの、真。今日の歌の稽古で気になる点でもあった?」

真「いや、雪歩が妙に張り切っていてね。新曲を心待ちにしているんだ」

千早「……急かされても良い歌は出来ないわ」

真「そういうつもりで来たんじゃないんだ、なんというか、応援に来たというか」

千早「応援、ね。丁度いいわ、少しそこで踊ってみてくれる?」

真「? なんで?」

千早「あなたたちは歌を歌うだけの仕事じゃないでしょう? なら、踊りまで視野に含めた歌を考えなければ」

真「……すごいな、千早は。そんな所まで頭を巡らせていたなんて」

千早「真剣に歌と向き合っていれば誰でも思いつくわ。あなたは、違うの?」

真「へへ、真剣じゃないとまでは言わないけど、本命はあの綺麗な衣装というか」

千早「……ふぅん」

真「ついこの間まで、一生男として生きて行くのか不安だったから、だから今はすごく楽しいよ」

千早「そう」


70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:03:44.92 ID:DLhiLSYD0

真「あれ? 千早、なんか怒ってる?」

千早「いいえ。なんでもないわ」

真「あ、分かった! 千早もああいう服、着てみたいんだね? 分かるよ、ボクも」

千早「もういいわ、集中したいから出て行って」

真「まぁまぁそう言わずに。そうだ、小鳥さんに頼んで一着借りて来るよ。千早も試しに」

千早「そう。なら私が出て行くわ」

真「ちょ、千早? どこ行くの?」

千早「散歩。ついて来ないで」

真「危ないよ、ただでさえ最近は物騒なのに薄暗い中一人でなんて」

千早「すぐそこまでよ、頭が冷えたら戻って来るわ」

真「頭って……さっきから何に怒ってるんだよ? 言ってくれなきゃ分から」


72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:08:19.92 ID:DLhiLSYD0

千早「分かってもらわなくても結構よ! 私が真剣に作った歌を、適当に歌うあなたなんかに!」

真「! ごめん、そんなつもりじゃなくて。適当になんて」

千早「もう一度言うわ、ついて来ないで」

真「……嫌だ」

千早「はぁ……あなたと一緒にいたくないの、怒らせないで」

真「一人は危ない、一緒についていく」

千早「邪魔だって言ってるでしょ! ついて来ないで!」

真「危ないって言ってるだろ!? 死にたがりも、いい加減にしろ!!」

千早「……っ、いいわよ。勝手にしなさい!」

真「ああそうさせてもらう!」


73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:13:52.79 ID:DLhiLSYD0

千早「……」

真「で、どこまで散歩するつもり? これ以上行くと帰りもしんどいよ?」

千早「っ……」

真「千早は案外歩くの早いなぁ」

千早「……」

真「……」

千早「……!」

真「あっどこに……!?」

千早「……ふぅ」

真「ふんふふーん」

千早「……!?」

真「諦めなって。鍛え方が違うんだから撒くなんて無理だよ」

千早「うるさいっ、話しかけないでっ」

真「頑固だなぁ」


75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:18:12.43 ID:DLhiLSYD0

ぷ「お前ェらどこほっつき歩いてやがったんだ、もうすぐ飯だぞ」

真「いやぁ、ちょっとそこまで」

ぷ「ちょっとそこまでってお前、千早の面ァそんなじゃねぇって言ってるぞ?」

千早「はぁ、はぁ……くっ」

真「一日中引きこもってれば、少し歩いただけでこうなるんですよ」

ぷ「へぇ、そんなもんかい。俺も気をつけねぇとな、うん」

千早「はぁ、ぷ、ぷろでゅー……さー!」

ぷ「あん?」

千早「道場……!」

ぷ「道場がどうしたんでい」

千早「明日から、はぁ、私も通いますから!」

ぷ「……いや、そりゃその方が体にゃ良いだろうが。どういう風の吹きまわしで?」

千早「ただの気まぐれです!」

真「だそうです」

ぷ「……そうかい、そんじゃよろしくやってくんな。とにかく今ァ飯だ飯だ!」


78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:24:57.27 ID:DLhiLSYD0

やよい「このお芋とっても美味しいですー!」

千早「あなたが、高槻さん?」

やよい「あ、はい! よろしくお願いします、千早さん!」

千早「兄弟が多いと聞いたわ、そんなにいるの?」

やよい「はい! えっと、弟四人と妹一人です!」

千早「そう。なら、どうか大事にしてあげてね」

やよい「うちの家族は皆優しいですから、心配いりませんよ!」

千早「……いい返事ね、ご褒美にお芋を一つあげるわ」

やよい「え? でも、それは千早さんの」

千早「いいから。歌の稽古は厳しいけれど、いっぱい食べて頑張って」

やよい「うっうー、分かりました! それじゃあ一ついただきます!」

千早「……どうか大事に、ね。私、みたいには」

やよい「あれ? ごめんなさい、何か言いましたか?」

千早「何でもないわ、気にしないで」

やよい「?」


81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:30:15.23 ID:DLhiLSYD0

小鳥「ぷろさん、ぷろでゅーさーさん。寝る前にちょっとお願いします」

ぷ「腹の皮が突っ張りゃ目蓋ァ弛むってなぁ、こりゃ仕方のねぇ話でさぁ。人の体ァそう出来てんですから」

小鳥「でも、ほら庭から妙な気配を感じませんか? 肌がざわつくと言うか」

ぷ「なんにも。気のせいじゃねぇですかい?」

小鳥「いいからちょっと庭に行って見て来てくださいな。何もないならそれでいいんです」

ぷ「はぁ、小鳥さんにそんな顔されちゃ仕方ねぇ。とは言えぱっと見て何もなかったじゃ納得もいかねぇでしょう?」

小鳥「わ、私も一緒に行かなきゃ駄目ですか?」

ぷ「幽霊の正体、何つったかな。とにかく自分の目でも確かめなせぇ、この手のは案外つまらねぇ物だったりするんです」

小鳥「ぷろさん、ぷろさん。何かあったらお願いしますよ?」

ぷ「へいへい、そんじゃあちょいと調べに行きますかね」


82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:34:43.05 ID:DLhiLSYD0

ぷ「小鳥さん、騒がしさなんてどこにあるんでさぁ? しんと静まり返ってるじゃあねぇですか」

小鳥「で、でも視線を感じます! ぷろさん、ちょっとあの茂みの方へ行ってみてください」

ぷ「茂み、茂みねぇ。おうい、誰かいるのかいっと……返事ァねぇな、小鳥さん灯りゃねぇですか?」

小鳥「ここに……」

ぷ「はいどうも。んー、見た感じゃぁ何もいませんがね」

小鳥「! い、今何か光りました! 危ないですよぷろさん、早く戻って来てください!」

ぷ「気のせいじゃねぇですかい? 何も光ってなんて……あん?」

???「ばう!」

ぷ「な、何だぁ!? 熊!?」

???「あ、こら!」

ぷ「しゃ、喋りやぁった! ひぃ!」

小鳥「きゃあ!」

???「ば、ばれてない? よし、今の内に逃げるぞ! いぬ美!」

ぷ「こ、こっちに来るんじゃねぇ! あわわ、あ……あ? いねぇ、どこ行きゃぁがった……?」


83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:40:12.01 ID:DLhiLSYD0

小鳥「ぷろさん! 大丈夫ですか? 怪我は?」

ぷ「いや、でっけぇ舌で顔をべろっと舐められたぐらいで……くぅ、思い出しても気色の悪ぃ」

小鳥「な、何だったんでしょうか……?」

ぷ「熊のようにも見えたが人のような細腕もあったような……小鳥さんには見えましたかい?」

小鳥「はい、毛むくじゃらの獣の首裏から人の腰が生えて、その頭には大きな尻尾が揺れて……」

ぷ「ありゃあ噂に聞く鵺って奴かも知れねぇ……畜生、なんだってそんなバケモンがこんな所にっ」

小鳥「ど、どうしましょう?」

ぷ「誰かが怪我してからじゃ遅ぇ。と、とにかくご隠居に相談しなくちゃ」

小鳥「そうですね、旦那様ならきっと名案を授けてくださいます」

ぷ「しかしこりゃあ、町の若衆も集めての大捕物になるかも知れねぇな……」


85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 00:47:02.40 ID:DLhiLSYD0

高木「庭に化物? はは、ぷろ。お前も存外酒癖の悪い奴だねぇ」

ぷ「旦那、笑いごとじゃねぇんだ! 俺も小鳥さんもその化物ォはっきりとこの目で見たんだい!」

小鳥「そうですよ、ぷろさんなんて顔をべっとりと舐められたって……!」

高木「なんだね顔を舐められるくらい。洗う手間が省けて丁度良いだろう」

ぷ「酔ってると思ってんですかい? 俺ァ今夜は一滴も飲んじゃいねぇってんだ!」

高木「なら臆病風に吹かれて、ありもしない物でも見たんだろう。それを幽霊の正体見たり、枯れ尾花と、昔からこう言うんだ」

ぷ「ああもう分からねぇお人だなぁ! 何かあってからじゃ遅ェんですよ!?」

高木「心配は要らんと思うがねぇ」

小鳥「旦那様っ」

高木「ううむ、さてさて……」

ぷ「ええい埒が明きゃしねぇ、おう響! 丁度いいとこに来た、化物退治を手伝ってくんな!」

響「うぇえ!? ば、化物なんていないと思うぞ?」

ぷ「ばっきゃろう俺ァ現に顔ォ舐められたんでい、ふん縛ってなますにしてくれらぁ!」

響「そ、そんなの可哀想だぞ! それにあれは仲良しの証さー! ……あ」


89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 01:11:28.66 ID:DLhiLSYD0

響「いぬ美、ねこ吉、シマ男、ブタ太、ハム蔵、へび香、オウ助、うさ江、ワニ子、モモ次郎、コケ麿」

ぷ「よくもまぁこれだけの数……で、お前さんは実はエテ公ってオチかい?」

響「自分、猿じゃないぞ! 人間だぞ! あ、でも猿もいるともっと賑やかかも」

ぷ「まだ増やすってのか!」

高木「いやぁ、私は打ち明けても誰も怒らないだろうと言ったんだがねえ」

響「だ、だって江戸じゃお侍が動物で試し斬りするんだって聞いたから不安で……」

ぷ「だからって拾った動物を片っ端から屋敷に連れてくるかねぇ? お前ェ、噛まれたりはしなかったのか?」

響「理由もなく噛んだりするような子はここにはいないぞ! 皆優しいんだから!」

ぷ「ケダモノに優しいも何もあるかってんでい」

響「動物にも優しさはあるの! 自分、いぬ美たちと毎日話してるけどすっごく優しいんだから!」

ぷ「おうおう分かった分かった。で、どうすんでい? このままここで飼うってか? そもそも蛇なんぞはそのちっこいの食いそうなもんだが」

響「へび香はハム蔵を食べたりしないよ! ……出来ればみんな、ここで一緒に暮らしたいんだけど、駄目?」


91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 01:21:02.32 ID:DLhiLSYD0

ぷ「旦那、響はああ言ってますが、ああも大勢の世話となると中々難しいんじゃ」

高木「私は構わないよ。ぷろ、それに音無君もいいね?」

ぷ「……ま、旦那がそう言うんでしたら。高木の旦那にゃ感謝しな、響」

小鳥「かしこまりました、旦那様」

響「にふぇーでーびるー! それじゃあ早速いぬ美たちの小屋を作らないとな!」

高木「こ、小屋? もしかして庭に作るのかい?」

響「? もちろんそうだぞ!」

ぷ「へへ、旦那の自慢の枯山水は動物天国かぁ。今更二言はありやせんよねえ?」

高木「う、うむ……分かった、好きにやっておくれ……」

小鳥「あの、旦那様?そこまでお嫌なら……」

高木「いやいや、男に二言はない。案外、こういう所で人の器が測られるんだ。はっはっは、ははは、はぁ……」

響「みんな良かったなー、これからは堂々と暮らせるぞー!」


93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 01:31:36.08 ID:DLhiLSYD0

ぷ「厠、厠っと……なんでい、まだ起きてんのか」

響「あ、ぷろでゅーさー。えへへ、みんなとちょっと話してたんだ」

ぷ「話、ね」

響「うん、結構みんなお喋りなんだぞ。今日はどこの魚屋で餌もらった、とか」

ぷ「へえ。それにしても、犬だの猫だのはまだ分かるがこのでっけぇトカゲはどこから?」

響「うーん、分かんない! 浜辺を散歩してたらガタガタ動いてる木箱が流れ着いてて、開けたら飛び出てきたんだ」

ぷ「ふぅん……もしかしてその箱、異国の言葉が書いてたんじゃあねぇかい?」

響「あー、言われてみればそんなのもあった気がする」

ぷ「ってこたぁあいつらもどこぞから一人ぼっちでここに来たわけか。お前ェと同じだな、大事にしてやんな」

響「そっか……そっかぁ、ワニ子もハム蔵も自分と同じだったのか」

ぷ「おっかさんが恋しいかい?」

響「ううん。今は、みんながいるから」

ぷ「……そうかい」




95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 01:41:14.86 ID:DLhiLSYD0

響「でも。でも、いつかはみんなと一緒に琉球に帰りたいな。ぷろでゅーさーも春香たちも皆歓迎するぞ」

ぷ「琉球、か」

響「うん。それで、あんまーたちに自分の最高の友達だって紹介するんだ」

ぷ「……へへっ、そうか。そりゃ楽しみだ」

響「うん、楽しみにしててよね!」

ぷ「おうよ……響。辛くなったら何時でも言いねぇ、俺に出来ることならなんだって力になってやらぁ」

響「……うん! じゃあ早速明日は小屋作りの手伝いを」

ぷ「あー聞こえねぇ聞こえねぇ、俺ァ厠に行くのに忙しいんでい」

響「もう、さっきと言ってることが違うぞー!」

ぷ「ばっきゃろう、離しゃあがれ。俺ァ手先が不器用なんだ、小屋なんぞ作れるかよ。それとも小便引っ掛けられてぇのか?」

響「うぎゃー! ぷろでゅーさー、ばっちぃぞー!」


97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 01:50:53.64 ID:DLhiLSYD0

高木「おはよう、ぷろ。今日はあまり私の方には誰も近づけないでおくれ、お客が来るからね」

ぷ「へぇ、お客ですか」

高木「ああ、今朝に文が届いてね。お医者の双海さんがいらっしゃる」

ぷ「ああなるほど、誰かと思やぁあの御仁ですかい。決心つけてくれたんだなぁ、いやありがてぇ」

高木「おや知り合いかい? お前さんも遊んでいるようで中々手広くやっているようだねぇ」

ぷ「……小鳥さんといい旦那といい、俺ァ仕事してねぇように見えるんですかね?」

高木「ああ、いや。良い意味でだ、良い意味で。だからそうむくれるんじゃあないよ」

ぷ「別に構いやしませんがね。そんじゃ俺ァまた挨拶回りついでに『すかうと』に行ってきまさぁ」

高木「よろしく頼むよ……行ったか。その『すかうと』が気前の良い食べ歩き、と近所で評判なんだと教えてやるべきだったかなあ」


99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:00:53.27 ID:DLhiLSYD0

高木「なるほど、亜美さんに真美さんか……大変な御苦労をなされてきたでしょう」

双海「ええ、双子は縁起が悪いと言われるのは知っていましたから。お産に立ち会った産婆も絞めろ、と」

高木「ううむ……しかし諦めきれず、里子にも出せず、といった所ですか」

双海「そんな所です。で、あなた方は私たちをどうするつもりですか? 情けがあるのなら、どうか放っておいてもらいたい」

高木「え?」

双海「え?」

高木「いや、私はうちの若いのから『双海亜美という良い娘を見つけた、もしかしたらうちのあいどるの一員になるかも』と」

双海「……双海の娘は双子で、それを隠して生活しているようだから強請れる、とかではなく?」

高木「そんな話は、一言も」

双海「……」

高木「……」

双海「うあうあ~!? じゃあ私は勘違いで大事な秘密を!? なし! 今の話なし!」


103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:08:30.11 ID:EuXFxinD0

なにこのおっさんかわいい


104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:10:10.32 ID:DLhiLSYD0

高木「はっはっは、そう焦らなくとも誰にも言いやしませんよ。それはそうと、どうですかな? 『あいどる』」

双海「……従わなければばらすと、そういうつもりですか?」

高木「強請る気はありません。ただ、聞く所によると娘さんたちも『あいどる』をやりたがっているとか」

双海「それは、しかし、二人並んで舞台に立つとなるとやはり周囲の噂が」

高木「では今まで通り、二人合わせての双海亜美として『あいどる』になればいかがか?」

双海「……種々の稽古に出るにも、そっくりの人間が二人並んでいればすぐさまばれましょう」

高木「指南役はうちに揃っています。そちらさえ良ければ、この屋敷で預かることでその問題は解決します」

双海「しかし、続ける内にそれぞれ元の別人として舞台に立ちたいと言い出すかも」

高木「そうなったらそうなった時です。それまでに対策も考えながらやっていくつもりです」

双海「破天荒な娘たちです、舞台に立つようになればすぐにそんな我儘を言うかも知れません」

高木「話じゃあまだ娘さんたちは小さい、一人立ちには今暫くかかりましょう。その間に迷信が失せないとも言えません」

双海「……」

高木「いかがですかな」


106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:17:34.67 ID:DLhiLSYD0

双海「……娘たちには随分と我慢を強いてきました。あの子たちが望むなら、よろしくお願いします」

高木「大事な娘さん二人、最高の『あいどる』に仕立て上げて見せます。どうか、ご期待ください」

双海「では早速今夜、人目につかないように二人を連れてきます」

高木「はい、お待ちしております」

――――

亜美「へー、ここが高木屋かー。これからよろよろー」

真美「中々大きいお屋敷ですなー、儲かりまっかー?」

双海「こら、静かにしなさい。それでは、無礼も多いでしょうが」

高木「はい、大事に預からせていただきます。二人とも、これからよろしくお願いします」


108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:24:39.78 ID:DLhiLSYD0

真美「真美たちの方が年下だよー? 敬語なんていいっていいってー」

亜美「あ、真美! この庭すごいよー、でっかい小屋がある! なんか訳分かんないのがいっぱいいるっぽいよ」

双海「亜美、真美。舞台は必ず見に行くからな。あまり迷惑をかけるんじゃないぞ」

亜美「ぱぱも心配性だねい、たまにそっちにも戻るから心配いらないよ」

真美「真美たち、すぐに花形になるから期待しててよねい!」

双海「そうか、頑張りなさい……よろしく、お願いします。それでは失礼します」

高木「おやすみなさい、お気をつけて。では、二人ともこっちへ……」


110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:31:07.13 ID:DLhiLSYD0

高木「ぷろ、おういぷろ。来たよ」

ぷ「お、ようやく医屋の秘蔵っ子様のお出まし……ってひぃ! ま、また同じ顔が並んで!?」

高木「お前も案外物を知らないねえ。こういう生き写しのようにそっくりに産まれてくる兄弟姉妹、これを双子と言うんだ」

ぷ「するってぇと、ありゃあ夢でも幻でもなかったってことかい……こいつぁたまげた」

亜美「あ、あの夜の兄ちゃんだ。あの時はごめんよー」

真美「昨日以来だねい兄ちゃん。ぱぱも真美もばれたんだって思ってびくびくだったんだよー?」

亜美「えー、真美は昨日兄ちゃんに会ったの? ずるいずるいー!」

真美「昨日は亜美が留守番する日だったんだから仕方ないっしょー? 真美悪くないもーん」

亜美「それでもずーるーいー! 今度亜美にお饅頭買ってきたら許してあげてもいいよ」

真美「真美、昨日ぱぱから聞いたよ! 亜美は昨日お昼ご飯の後に真美のお饅頭も食べたって。そっちの方がずるいっしょー!」

亜美「うあうあー!? あれはお饅頭が亜美に食べて食べてーって言ってたからー!」

ぷ「同じ顔同じ声でしかも一人一人喧しいと来た……旦那、俺ァなんだか自信がなくなっちまいそうでさぁ」

高木「はっはっは、大丈夫。私の眼に狂いはないよ、お前なら出来る」

ぷ「信頼していただけるのはありがてぇんですが、はぁ」


112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:38:31.91 ID:DLhiLSYD0

高木「皆揃ったかな? うむ、夜も遅くにありがとう。では、ぷろ」

ぷろ「へい。先日入ってきた萩原雪歩、高槻やよいの両名。そこへ今しがた入って来た双海亜美、真美を加えた三人」

雪歩「は、はい!」

やよい「はーい!」

亜美「よろよろー。ってあれ? 四人じゃないの?」

真美「真美たちは二人一役っしょー?」

ぷ「そういうこったな。この三人、実質四人を一つの塊として動かしていく。春の字の方の三人は先輩として色々教えてやんな」

春香「はい、任せてください!」

真「先輩として、じゃんじゃん扱いて行くからね」

響「踊りのことなら自分に任せて欲しいぞ!」

ぷ「千早、小鳥さん。そんなわけで今後とも指南の程ォお願いしやす」

小鳥「はい、力の限りに」

千早「……まあ、それなりに」

ぷ「それじゃあここに『あいどるゆにっと』の新生っつーことで、旦那。どうぞ!」

高木「うむ。や、うちも賑やかになってきたものだねぇ。これからも益々、頑張って行こう。それでは、乾杯!」


113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:44:25.75 ID:DLhiLSYD0

千早「発音が甘いわね……もう一度、さぁの所から」

やよい「さぁにーじーがー出来ーれぅー♪」

千早「る」

やよい「出来ーれぅー♪ ちゃ、ちゃんと言えてましたかー?」

千早「……どうしましょうか、小鳥さん」

小鳥「無理に直さなくても、これぐらいなら持ち味の範疇じゃないかしら?」

千早「……」

小鳥「やよいちゃんの可愛らしさが出ている、良い歌声だと思うわ」

千早「そう、でしょうか」

小鳥「うーん、ぷろさん? ぷろさんは、どう思いますか?」

ぷ「良いと思いやすが……納得行かねぇかい?」

千早「このままだと、高槻さんは暗い曲や悲しい曲は歌えないかと。何を歌っても朗らかな歌になってしまう気がします」

ぷ「やよいはそれで良いんじゃねぇか? 陰のある美人って感じじゃねぇし、明るい奴だけ歌ってりゃ」

千早「納得が行きません。こうして指導する立場にある以上、高槻さんたちにも色んな歌の良さを知ってもらいたいです」


114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 02:50:17.86 ID:DLhiLSYD0

小鳥「出来ーるー♪」

やよい「出来ーれ、れるー♪」

ぷ「しかしお前ェ、やよいが暗ェ顔で涙溜めながら、恋に別れたような歌ァ歌ってるのを想像すっと、どうでい?」

千早「それは……少し、胸は痛みそうですけど」

ぷ「だろ? そんな辛気臭いのは受けねぇよ、そういうのは……そうだな、可愛いより綺麗って感じの女に似合う」

千早「受け、ですか」

ぷ「おうよ。例えば、そうさな。お前さんなんか画になると思うが」

千早「わ、私ですか!?」

ぷ「前々から思ってたが、どうだい? 一つここらで如月先生も『あいどる』になる、ってな」

千早「お断りします!! 私、私は……!」

ぷ「おうおう、そんな怒鳴らなくたっていいじゃねぇか。二人もびっくりした顔してるぜ?」

千早「あ……ごめん、なさい」

やよい「あの、大丈夫ですかー? 」

小鳥「私も少し驚いちゃったけど……それで、話はまとまりましたか?」


116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 03:05:31.67 ID:DLhiLSYD0

千早「……今日はもう、休ませてもらいます。音無さん、他の部分の稽古をつけてあげてください」

小鳥「う、うん、分かったわ。えっと、ぷろさん?」

ぷ「へい、後で茶でも交わしながら事情聞いて来まさぁ」

小鳥「お願いしますね。それじゃやよいちゃん、今日は他の部分を頑張りましょうか」

やよい「はい……えっと、千早さん大丈夫なんですか?」

小鳥「ぷろさんが上手くやってくれるわよ。そうですよね?」

ぷ「ええ、大船に乗ったつもりでいてくだせぇ」

やよい「ぷろでゅーさー、お願いします」

ぷ「おう、任せとけ」


118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 03:13:06.73 ID:DLhiLSYD0

千早「……このー翼、もーがれてはー、生きて行けない私だかーらー♪」

ぷ「綺麗な歌声だねぇ、心が洗われらぁ」

千早「盗み聞き、ですか。随分と趣味が悪いですね」

ぷ「そんなつもりはなかったんだが、聞こえて来たもんでつい」

千早「それで何の用ですか。もうこれ以上は歌いませんよ」

ぷ「いや、ちょいと『すかうと』にな。今の歌声でてぃんと来た、やっぱりお前さんは『あいどる』をやるべきだ」

千早「くどいです、やらないと言ったらやりません」

ぷ「やらないならそれでも構わねぇ、だがそれなら歌手になるべきだ。このまま埋もれさせるなんて」

千早「私はもう人前で歌いたくないんです。さぁ、もう出て行ってください」

ぷ「嘘つくんじゃねぇ! そんな奴が、あんな羨ましそうな目であいつらを見るか!」

千早「……迷惑です、もう放っておいてください」

ぷ「お前ェがなんだって歌わねぇかは知らねぇが、歌いたいなら歌やぁいいだろうが。誰に何の遠慮をしてやがんでい」


120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 03:21:34.10 ID:DLhiLSYD0

千早「辻斬りに斬られた弟の話、しましたよね? その関わりです。あなたには踏み込まれたくない」

ぷ「……ふん、そうかい。ならそのままウジウジやってろってんだ」

千早「……」

ぷ「だがな、色んな歌の良さを知ってもらいたい。ありゃあお前が歌えばやよいだけじゃねぇ、聞く奴全員に知らしめられる」

千早「早く、出て行って」

ぷ「今舞台に立つ連中にゃ誰も歌えねぇ、哀しみの歌の良さはお前だけにしか伝えられねぇんだ!」

千早「しつこい!!」

ぷ「……邪魔したな。腐るのに飽きたら言いな、準備は整えといてやらぁ」

千早「はぁ、はぁ……優、私は」


125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 04:07:29.17 ID:DLhiLSYD0

響「雪歩、足元も大事だけど周りとの距離も見てね」

雪歩「ご、ごめんなさい!」

響「謝らなくてもいいさー。それより下向いてるから体が安定しないんだ出来るだけ顔は上げた方がいいぞ。」

雪歩「は、はいぃ!」

響「自分もこの間初めて舞台に立って驚いたけど、お客さん全員の顔がこっちに向いてるんだ。折角だから顔を見てもらえるようにね」

雪歩「たくさんの人の顔が……はうぅ」

響「ああ、雪歩気絶しないでー!」

亜美「よ、空中一回転!」

真美「そこに荒ぶる鷹の舞!」

亜美「そんでもってカマキリの構え!」

響「亜美と真美は余計な振り付けを足すなー!」

亜美「だってこれむずすぎっしょー」

真美「こっちの方が簡単でかっちょいいっぽいよ?」

響「構成的にそういうのは入れられないの! そもそも亜美と真美はどっちかだけだからそういう二人でやるようなのは無理だぞ!」


127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 04:17:58.48 ID:DLhiLSYD0

亜美「あ、そだっけ」

真美「……どっちか片方だけ、か。亜美と真美、どっちが出んだろね?」

亜美「そりゃ当然二人の内の可愛い方、亜美だよう!」

真美「いやいや、ここは二人の内の可愛い方、真美だねい!」

亜美「可愛い上に大人の色気も出始めた亜美の方が適任っしょー!」

真美「それを言うならお胸も膨らんできた真美以外ありえないっしょー!」

亜美「亜美の方が可愛いおちりしてるもんね!」

真美「真美のこのくびれを放っておく手はないよう!」

亜美「亜美のすらりと伸びた手足が!」

真美「真美の艶っぽいうなじが!」

響「喋ってないで練習しろー!」


129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 04:31:26.50 ID:DLhiLSYD0

真「いよいよ一週間後かぁ」

春香「私達は合間合間に『らいぶ』やってこられたから少しは慣れてきたけど……」

真「雪歩たちは初めてだもんね、やっぱり心配?」

春香「やれるだけのことはやってきたつもりだけど、私なんかが人に物を教えるなんて天狗になってるかもって思っちゃって」

真「春香、教える側の人間が迷っちゃいけないよ。教えられる側にも迷いが伝わって、立ち止まってしまう」

春香「……」

真「なんてね、これは父さんの受け売り。道場の師範代なんて無理だよ、って言ったら拳骨と一緒にそう言われたんだ」

春香「あはは、真のお父さんらしいね」

真「当時は無茶苦茶だって思ってたけど、今になってみるとよく分かるんだ。千早の指導を受けてると特にそう思う」

春香「うん、安心してついて行こうって思える。何も心配いらないんだ、って」


131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 05:02:51.05 ID:DLhiLSYD0

真「ボクもそう思う。だからさ、ボクたちの方が先輩なんだから、雪歩たちにもそんな風に思ってもらえるように自信持とうよ」

春香「……うん、そうだね。私たちは友達で、先輩で、仲間だもんげ!」

真「ぷっ、あはははは! くく、普通そういう台詞で噛む?」

春香「うぅ、かっこよく決めようと思ったのに……」

真「かっこよくなくてもいいんだよ、一所懸命にやれば伝わるんだから」

春香「かっこいいのは真の専売特許だし?」

真「あ、酷いなぁ。ボクも最近は可愛くなってきたと思うんだけど?」

春香「ふふ、ごめんごめん。そうだよね、私もちゃんと自信持たなきゃ」

真「あと、一週間。自分の初舞台みたいに緊張してるよ」

春香「私たちの磨けるところを思いっきり磨いて、雪歩たちに教えられることは全部伝えなきゃね」

真「そうそう、教えるのに手一杯で追い抜かれるなんて笑えないもんね」

春香「本当だよ、あはは」


134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 05:40:48.50 ID:DLhiLSYD0

ぷ「よし、揃ってるな? ん、いい面構えだ。真美、お前ェはしっかり見とけよ? さて、始まる前に……春香、お前ェ一丁音頭取んな!」

春香「え、ええ!? 私が音頭取りですか!?」

ぷ「なんでもいい、気合が入りそうなのを一発こう、びしっと!」

春香「ううん、じゃあ……真と響ちゃん、それに私でやりやすい空気作る……から、安心して待っててね! が、頑張るぞー! おー!」

――――

ぷ「天海春香・菊地真・我那覇響に替わりまして、これより歌い舞いまするは、類い稀なる才に溢れた未だ空見ぬ鳳の雛!」

若衆「あん? もう響ちゃんの舞台は終ぇかい?」「どこの馬の骨とも知れねぇ奴らより、春香ちゃんを出せってんだ!」

ぷ「本日巣立ちを迎えたるは、ガラクタ長屋の貧乏小町、大工萩組の愛娘、双海医屋のイタズラお下げ!」

若衆「なんでい、要はただの町娘じゃねぇか!」「俺ァ師範代目当てなんだ、帰ェろ帰ェろ」「まぁとにかく黙って見てなさい」

ぷ「おっと心配召されるな、幼さ残る三人なれど先の舞台に負けず劣らず! 名は、高槻やよい・萩原雪歩・双海亜美!」

若衆「いょっ、お嬢!」「ちょいと乳臭ぇがこいつぁ中々」「いやちょいと見た目が良くたって歌い踊れにゃ話にならねぇ」「ふむ、折角だから見てくか」

ぷ「恋に焦がれる乙女の純情、不意に掴んだ玉の輿! 女の武器に磨きをかけて、両のかいなでこの身を抱いて……まずは一曲、『どうでい!』!」


135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 05:44:20.98 ID:xDFgGjEs0

do-dayワロタ


136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 05:54:06.72 ID:DLhiLSYD0

ぷ「ありがとうございます、ありがとうございます! お代はあちらに! お気を付けて、へぇ、ありがとうございます! 足元お気を付けください!」

高木「ああこれはこれは、ご無沙汰しております。ええ、新たに始めた興行でして、いえ道楽のようなものですよ」

ぷ「旦那、旦那ァ。俺ァ外のノボリを……ありゃ、お邪魔でしたかい?」

高木「いやいや、丁度良い機会だ。こちらは手広く商いをしていらっしゃる秋屋のご主人だ」

秋月「どうも、はじめまして。素晴らしい舞台でしたよ、年の頃は同じでもうちの娘にゃとてもとても」

ぷ「へ、へぇ。こりゃご丁寧にどうも……」

高木「そしてこちらも各地に店を持つ豪商、水瀬のご隠居だ」

水瀬「あの舞台を作ったと言うから何者かと思ったが、まだ随分な若造じゃないか」

ぷ「へ、へぇ。恐縮にござい……あの、高木の旦那?」

高木「うむ、次はお前の紹介だな。私の所で右腕として働いてくれている、ぷろでゅーさーという男です」

ぷ「一つよろしくお願いいたしやす……って旦那、そうじゃねんだ」

高木「なんだね落ち着きのない。あまりみっともない所をお見せするんじゃあないよ」

ぷ「や、こいつぁ気が効きませんで申し訳。じゃなくて、こういうお偉方との話になんで俺なんぞが」


138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 06:12:41.38 ID:DLhiLSYD0

秋月「いやいや、高木のご主人が面白そうな商いを始めたと聞きましてね」

水瀬「聞いてみればその大黒柱はぷろでゅーさーとかいう男だというじゃないか、どんな奴かと一目見にな」

秋月「おや、水瀬さんは見るだけですか? 私はこの機会に一枚、噛ませて頂こうと思っていますが」

水瀬「こんなヒヨッコが舵握っとるんじゃ安心出来ん。いつ沈むか分からん船に銭は積めん」

秋月「相変わらずですねぇ。ぷろさん、どうかお気を悪くなさらんでください」

ぷ「臨時とは言え、こちとら高木の屋根の下に置いてもらってる身でさぁ。噛み付く相手ぐれぇ、弁えていやす」

水瀬「ふん……だがまぁ、高木がどうしてもと言うなら銭のいろはを叩きこんだ上で乗ってやってもいいがな」

高木「本当に相変わらずだねえ。じゃあその辺りのことを頼むよ。ぷろ、ぷろ。お前もお礼を」

ぷ「へい。水瀬のご隠居、若輩のこのぷろにご指導ご鞭撻の程ォよろしくお願いいたしやす」

水瀬「良い態度だな。良かろう、教えられることは全て教えてやろう。高木よ。この若造、三日程借りるぞ」

高木「いやあ助かるねえ、うんうん。それじゃあ、よろしく頼むよ」

ぷ「旦那ァ、しばらくの間あいつらをお願いします」

高木「うむ。こっちのことは任せて、存分に学んでおいで」


139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 06:20:45.70 ID:DLhiLSYD0

秋月「しかし高木屋さんも大変ですねぇ。水瀬さんに黒井さんと、中々癖のあるお人に好かれてばかり」

高木「いやいや、あの手合いは皆、根は良い者ばかりです。正反対な事ばかりを言うのはむしろ正直者と言えましょう」

秋月「ははは、これは手厳しい。本題を中々切り出さない商人は食えないと?」

高木「いえ、嫌味を言ったつもりはありません。常に主導権を握る機会を伺うのは、商魂たくましく見上げたものです」

秋月「高木屋さんにそう言ってもらえるといくらか救われます。さて……物は相談ですが」

高木「はい、なんでも聞きますよ。一代でここまで名を広めた秋月さんだ、きっと、互いに良い話でしょう」

秋月「先も言ったうちの娘ですがね、今後大きくなって行くであろうこの事業に早く触れておいて欲しいのです」

高木「親心ですねえ……心配ですか?」

秋月「抜け目ないようでいて今一つ世を知らない、と言った所でしょうか。ここは一つ荒波に揉まれた方が、と」

高木「なるほど、事情は分かりました。では後日改めて、うちのぷろとそちらの娘さんも交えて」

秋月「ええ、よろしくお願いします。丁稚の見習いから店番まで、なんでも言ってやってください」

高木「いやいや、以前に見たご息女はまるでお人形のように整った面貌でした。是非『あいどる』の方を」

秋月「はっはっは! それは多分ないでしょう、あれは自分の見た目が他人様より劣っていると考えとるようですから」

高木「そうですか? 今や随分な美人に育っていそうなものですが」

秋月「ふふ、未だ嫁の貰い手もないのにですか? おっと、そろそろ……また伺います。よろしくお願いしますよ」


140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 06:29:11.35 ID:DLhiLSYD0

ぷ「そういやぁ……うーん……一体どこで何を……」

水瀬「何をぶつぶつ言っておる、きりきり歩かんか」

ぷ「ああ、こりゃすいやせん。ちょいと気がかりがありまして」

水瀬「わしがこれから教鞭を取って教えてやろうというのに、他の事を考えとるとはいい度胸だな」

ぷ「そういうつもりじゃねんですが、あ、そうだ。ご隠居、水瀬のご隠居。水瀬屋は色んなところに店ェ構えてんでしたよね」

水瀬「ああ、それがどうした。わしはまだまだこの程度では満足しておらん、全国津々浦々にまで水瀬屋の看板を」

ぷ「ものを教えてもらう分際で恐縮ってなもんですが、一つ人探しを願えませんかね?」

水瀬「あん? 何故わしがそんなことまで世話せにゃならん」

ぷ「『あいどる』になりたいって人がいたんですが行方不明でして。見つけて帰りゃ高木の旦那に貸し一つ作れますぜ」

水瀬「……呆けた顔の割に中々口の回る。いいだろう、尋ね人の特徴を詳しく話せ」

ぷ「へい。名前は、三浦あずさってんですがね?」


142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 06:39:21.71 ID:DLhiLSYD0

千早「春香、お疲れ様。頑張ってたわね」

春香「あ、千早ちゃん……えへへ、私の歌はどうでしたか先生?」

千早「分かるでしょう? あなたの歌を聞いた人たちの顔、どうだった?」

春香「皆、笑ってくれてた」

千早「そういうことよ、充分合格点だわ」

春香「あれ、満点はもらえないんですか先生ー?」

千早「詰めが甘いのは前と同じ。今日の所はゆっくり休みなさい、明日からまたみっちり稽古よ」

春香「ひ、ひえぇ……」


146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 07:10:10.09 ID:DLhiLSYD0

響「上出来だったさー! 雪歩も練習した所、ちゃんと踊れてたぞ!」

雪歩「う、うん! どうしよう、私、今すごく嬉しい……!」

響「見てたお客さんもきっと同じ気持ちだぞ! 今度の舞台も、今日と同じくらい良い出来にしようね!」

亜美「おやおやー? 響先生は甘いですなー、次は今日以上を目指さないとだめっしょー!」

響「お、言ったな? なら次は、自分が考えたもっとかっちょいい激しい踊りだぞ!」

亜美「今の亜美たちなら楽勝っぽいよー。ね、ゆきぴょん?」

雪歩「……うん!」

響「ふふ、えへへ」

亜美「どうしたのひびきん? 気持ち悪いよ?」

響「き、気持ち悪いとか言うなー! ただちょっと……!」

雪歩「ちょっと?」

響「……ちょっと、仲間って良いなって実感しただけだぞ。はいもうこの話お終い!」

亜美「こんなに赤くなって可愛い奴めー! 良いではないか良いではないかー!」

響「うぎゃー!? 脱ーがーすーなー!!」

雪歩「ふふ、あはは!」


148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 07:28:10.24 ID:DLhiLSYD0

真「元々体力がある方だと思ってたけど、やよいはすごいなあ」

やよい「うっうー! まだまだ歌えますよ踊れますよー!」

真「『どうでい』やってから『初舞台』の脇固めて、『きらめきらり』でもあんなに声出して動いてたのに」

やよい「『初舞台』の雪歩さんも、私の後の亜美も私と同じくらい頑張ってたかなーって」

真「……そうだね、やよいたちはすごいな。ボクらも負けてられないや」

やよい「はわっ! 他の二人は分からないけど、私はまだまだ追いつけませんよー!」

真「でも、追い越したいとは思ってるでしょ?」

やよい「それは、えっと……えへへ」

真「はは、これは気を抜けないな。負けない為にも、やよいの良い所はどんどん真似させてもらうよ」

やよい「私も真さんのすごい所、ぜーんぶ真似しちゃいます!」


150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 07:49:15.16 ID:DLhiLSYD0

真美「あーあ、つまんないの。真美だって亜美と同じくらい頑張ったのに」

高木「そうむくれるものではないよ。ぷろも甲乙付け難いと言って、最後は阿弥陀籤で決めたと言っていた」

真美「それ本当!? 真美の方が下手っぴだから『らいぶ』やれなかったんじゃないの?」

高木「ああ本当だとも。きっと次の舞台では真美君が双海亜美として出ることになるだろう」

真美「双海亜美、か」

高木「おや、今度は悲しそうな顔を。何か気にかかることでもあるのかね?」

真美「あんね。やっぱり真美、真美として舞台に立ちたいっぽいよ。二人で一人なんて、もうやだ」

高木「……」

真美「亜美と真美はそっくりだけど、一緒じゃないもん。亜美は亜美で、真美は真美なんだってみんなに言いたい」

高木「双子だとばれても、かい?」

真美「本当に、ばれちゃ駄目なのかな」

高木「君のお父様は、そう考えているようだった」

真美「真美ね、お友達いっぱいいるよ。近所の兄ちゃん姉ちゃんとも仲良しなの。おじさんやおばさんも。でもね」

高木「でも?」


152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 08:00:31.46 ID:DLhiLSYD0

真美「真美たちが双子だからって嫌うような人、きっと一人もいないよ。みんな優しいもん」

高木「……」

真美「ね。真美、双海真美になっちゃ駄目かな? 亜美の隣で、一緒に歌っちゃ駄目なのかな?」

高木「実は、ぷろともその事を話し合っていてね。なんとか出来ないかと考えているところなんだ」

真美「ほ、本当!?」

高木「具体的にいつ、とは言えないが、どうか私たちを、ぷろを信じてやってほしい」

真美「そっか……うん、待つよ。真美、兄ちゃんのこと信じて待ってる」

高木「そう伝えておこう。さ、真美君も亜美君たちを労ってやってくれ、きっと喜ぶはずだ」

真美「うん!」

高木「……ぷろ、まだまだ前途多難だが、お前とならこの夢を叶えられそうな気がしてくる。不思議なものだ。本当に、ありがとう」

真美「ご隠居もこっちおいでよ! ピヨちゃんも待ってるよー!」

高木「おお、それはすまなかったね。今行くよ」


155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 08:24:04.22 ID:DLhiLSYD0

さるさん事情と予定していた書き溜め分を投げ終えたのとでひとまずの幕間とさせて頂きたく
どうにか次のスレ立てで終わらせるから許してちょんまげ


156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 08:34:23.42 ID:4THAKaHi0

お疲れ様


157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 09:06:47.37 ID:56Gjnp5N0




162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 09:50:52.38 ID:+m5Kw2EQO

続き待っていた!…と思ったら終わってた。


163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/28(金) 09:59:30.38 ID:a7WdA1On0

乙!


引用元: 春香「超・大江戸七六五ぷろ」