1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 20:57:28.25 ID:lNWypBrr0
真美は悪くないもん。

ケンカになったのは何でだったっけ。
たしか、真美だけはるるんのお菓子を食べてズルいとかそんな感じだったと思う。

いつもなら、ケンカをしても次の日の朝にはいつも通りなんだけどさ。
今朝は遠くで竜宮小町のお仕事だから真美が起きる前にりっちゃんの車で亜美はお仕事に行っちゃって仲直りが出来なかったんだ。
だから、ちょっとモヤモヤする。




5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 20:59:05.39 ID:lNWypBrr0
でも、家を出る前に一言くらい言ってくれればいいのにさ「行ってきます」って。
それともまだ、仲直りしたくないって思ってるんかな。
真美と話なんてしたくないのかな。

「――に着いたぞ」

あれ? 兄ちゃん何か言ってた。
ヤバい聞いてなかったよ。

「ごめん、兄ちゃん。もっかい言って」

「だから、事務所に着いたぞ。レッスン中もだったけど今日はやけにぼおっとしてるな。どうかしたのか?」

ありゃりゃ、鈍感な兄ちゃんにもバレてたか。う→ん、兄ちゃんに話すのは何かヤだな。

「ううん、何でもない。じゃあ、おっさきに→」

車を降りて、ドアを閉めようとすると兄ちゃんのちょっとだけ心配そうな顔が見えた。

「何かあるなら俺に相談してくれよ。じゃあ、これから迎え行かなくちゃいけないから」

「うん、わかった」

ごめんね、兄ちゃん。




8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:01:06.61 ID:lNWypBrr0
――――――――――

カンカンカンと音を立てながら階段を昇って、ボロっちいドアノブを捻って……。

「たっだいま→!」

「あ、真美おかえりー」

「あら、真美ちゃんおかえりなさい」

おかえりの声は2人だけ。見回してみても2人だけ。
他には誰もいないみたい。

「ねえねえ、やよいっち。みんなはどうしたの?」

「みんなレッスンに行ってるみたいだよ」

ふーん。真美とやよいだけ、別スケジュールだったのかな。




11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:06:04.17 ID:lNWypBrr0
「今日は真美ちゃんとやよいちゃんだけスケジュールの都合で別行動なのよ。竜宮はお仕事で、他の子はまだレッスンね」

そっか、じゃあ事務所には3人だけなんだ。

「今、小鳥さんにお茶淹れるところだったんだけど、真美もお茶でいい?」

「うん、お願いするね」

「ごめんねー今ちょっと手が離せなくって、やよいちゃんにお願いしちゃったの」

「大丈夫ですよ!」

ここいらでちょいと休憩ですかな。
ソファーに座る時も小さくふぅとか言っちゃってたりね。




12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:12:23.49 ID:lNWypBrr0
亜美とケンカするのは別に珍しい事じゃない。ちっさな事で言い合いになるのも多かったりする。
でも、すぐいつも通りに戻るんだ。「ごめん」とかそういう言葉も言わないけど、ケンカ自体がなかったように仲良くイタズラとか2人でするんだ。

だけど、今日は亜美とまだしゃべってない。仲直り出来てない。
亜美、怒ってるんかなあ。

で、でも、真美は悪くないもん。亜美が竜宮にいるのが――

「亜美、はいお茶だよ。まだ熱いから気を付けてね」

「あ、ありがとう、やよいっち」




14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:18:00.86 ID:lNWypBrr0
やよいっちは反対側のソファーに座ったけど、何となく目を合わせられない。
やよいっちはも姉弟ケンカとかするのかな?
ええい、気持ちリセット、やよいっちティー!
パッと持って、ガッと傾けて、ズッとすって――

「熱っ!!」

熱かった。かな→り、熱かった。あぶないあぶない、湯のみまで落としそうになっちゃった。
そんな事になってたら大変だったよ。

「だっ、大丈夫、真美?」

「う、うん。ちっとベロがヒリヒリするけど」

「もう! 言ったでしょ、熱いよって」

「ご、ごめん……」

怒るとちょっと恐いんだよなぁ、真美の事を心配してくれてるからなんだけど。




19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:24:01.96 ID:lNWypBrr0
「ねえ、真美どうしたの? 亜美とケンカでもした?」

「えっ!? 何で分かったの?」

「えーっと、長介たちがケンカしたのを隠してる時みたいな顔してたからかな」

……やよいっちには、隠し事できないな。
年は1つしか違わないけどなんたって5人の妹と弟を持つス→パ→お姉ちゃんだもんね。
相談……してみよっかな。やよいっちなら、言ってもいいかも。

「あのね、話聞いてくれるかな?」

「もちろん!」




20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:30:05.90 ID:lNWypBrr0
でも、何を話そう。どうやって話せばいいんだろ。
何から話せばいいんだろ。考えれば考えるほど――

「大丈夫だよ、落ち着いてゆっくり話せばいいからね」

「う、うん。わかった」

本当にスゴいなあ、焦ってたのもわかってるんだもん。
そうだよね、ゆっくり話せばいいんだもんね。

「あのね、昨日なんだけど……」

それから途切れ途切れだけど話してみた。
やよいっちはたまにうんうんとうなずきながらも静かに聞いてくれた。

だけど、話せば話すほど、くだらない事でケンカしてたなあと思えてきて。
どうしてケンカになっちゃったんだろ。

「――って事なんだ。だから、亜美は仲直りしたくないのかなって思っちゃって……」

「うん、うん、そっか。真美と亜美はそれでまだ仲直り出来てないんだね」

うんうんうなって悩んでるみたいだけど、大丈夫だよね。
だって、タイミングが悪かっただけでちゃんと会えば元通りだと思うもん。




22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:36:02.25 ID:lNWypBrr0
「ありがとね、やよいっち。なんだかスッキリしたYO! 大丈夫、亜美と会えばすぐ仲直り出来るって!」

「う~ん、それじゃあダメだと思うよ」

ダメ? どうして? だって、真美と亜美はいつも一緒だもん。ダメじゃないでしょ。

「なんでそんな事言うのさ!」

やよいっちは悪くないんだけど、つい強く言っちゃった。
だけど、そんな風に言うんだもん。真美よりも亜美の事を知ってるワケないのに!

「あのね、それってケンカのきっかけだけど原因じゃないでしょ?」

きっかけ? 原因? それって同じっしょ。

「真美はさ、亜美に言ってない不満があるんじゃないかな?」

世界で1番近くって、1番仲が良くって、1番お互いを知ってる人に言えないこと。
亜美に言えないことなんて……

「ほら、その顔ってことはやっぱりあるんだね」




23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:42:02.90 ID:lNWypBrr0
「そんなの……ないよ」

「大丈夫だよ、真美。たぶんね、その気持ちは相手が大切だからこそ言えないんだよ」

大切だからこそ、言えない気持ち。傷つけたくないからこそ、言わない言葉。

亜美じゃない、真美の……気持ち。

「あのね……真美、亜美に嫉妬してるんだと思う」

「うん、そっか」




24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:48:01.05 ID:lNWypBrr0
真美と亜美はいっつも一緒だった。運動するのも、勉強するのも、遊ぶのも。

同じことをして、同じように笑って、泣いて、悲しんでた。

だから、真美と亜美は同じだと思ってた。
鏡から出てきた、もう1人の自分。影から出てきた、もう1人の自分。
そう、思ってた。

でも、アイドルでだけは違った。




25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 21:54:00.10 ID:lNWypBrr0
亜美はりっちゃんに選ばれて、竜宮小町に入れた。
真美はりっちゃんに選ばれなくて、竜宮小町に入れなかった。

そして、竜宮小町は人気者になった。

どんどんテレビに出て、どんどんCDを出して。

どんどんと先に進んで……。

真美は置いてけぼりになっちゃった。

何が悪かったのかな?
亜美と真美で何が違ったのかな?

ずっと、ずっと一緒で同じだったのに、どこで……間違っちゃったのかな。

「間違ってなんかないよ。真美は間違えたんじゃない、大丈夫だよ」




26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:00:01.96 ID:lNWypBrr0
何だか、目がぐしゅぐしゅする。
何でだろ。

「ほら、真美。大丈夫だから」

目をこすってたら、ぎゅってされた。

あったかい……。




27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:06:01.21 ID:lNWypBrr0
「真美っ、真美ね、悪い子なんだ。亜美が、がんばってるのに……」

「うん、うん……」

「それなのにね、亜美だけズルイって思ってね。どうして真美じゃダメなのってね」

「うん、そっか……」

「真美が亜美じゃダメなのかなって……。真美は亜美のこと大好きなのに……。でも、でも……」

世界で1番大切なのに、そんな風に思っちゃいけないのに……。
真美じゃなくて亜美だったのは真美がこんなに悪い子だったからなのかな。

大好きな亜美ががんばってるのに素直に喜べない悪い子だったから、ダメだったのかな。




30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:12:00.79 ID:lNWypBrr0
「大丈夫だよ、真美は何にも悪くないから。大丈夫だよ」

でも、でも、真美は……。

「大丈夫よ、真美ちゃん」

反対からもぎゅってされた。あったかいよ、ピヨちゃん。
でも、涙がとまんない。

「真美ちゃん。あのね、真美ちゃんは、亜美ちゃんとは違うのよ」

「真美の方が――」

「――方がなんて言っちゃダメよ。人をね、比べて優劣をつける事なんてできないのよ」

「だって、だって……」

「真美、私はね、亜美じゃなくて、真美のいいところいっぱい知ってるよ」

「私も真美ちゃんのいいところ沢山知ってるわ」

真美は悪くないの……?




31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:18:04.96 ID:lNWypBrr0
「前にね、律子さんが言ってたのよ。絶対に言わないでくださいねって言われてたんだけど、教えちゃうわ」

りっちゃんの……秘密?

「律子さんね、竜宮小町のメンバー決めにとっても悩んだのよ――当然よね、うちの一大プロジェクトだったもの。特に亜美を入れるかは最後まで悩んでたのよ」

亜美を入れるかどうかで悩んでたんだ……。

「悩んでた理由はいろいろあったらしいわ。……亜美と真美のどちらにするかってのもね」

真美じゃなくて、亜美が選ばれた理由……。

「伊織ちゃんとあずささんともう1人。欲しかったのは、足りなかったのは無邪気さだったのよ。そうね、候補には美希ちゃんとやよいちゃんも入ってたらしいわ」

「ええっー私もですかー?」

「そうよ、でもやよいちゃんは結構落ち着いてる性格で、美希ちゃんは無邪気というより自由奔放だったからちょっと違ってたの」

「へー、そうだったんですか」

やよいっちとミキミキが選ばれなかった理由。
そして、後は……真美が選ばれなかった理由。




32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:24:00.15 ID:lNWypBrr0
「真美ちゃんはね、お姉ちゃんだったのよ。亜美ちゃんと比べて、ちょっとだけお姉さんでちょっとだけ大人。律子さんはそう見たの」

真美の方が……大人だった?

「ほんのちょっぴりだけどね、大人だったの。竜宮ではそのお姉ちゃんの部分が活かせないと、そう考えたらしいわ」

「……真美が妹だったら良かったのかな?」

「こら、そういうこと言っちゃダメだよ。真美は真美なんだから」

「でも、そうだったら真美も竜宮小町に入ってて、活躍できて……」

もっと、いろいろ出来てたかもしれないのに。

「あら、真美ちゃんはプロデューサーさんを信じてないのかしら?」

「ち、ちがっ――」

兄ちゃんは真美のためにがんばってくれてるもん!




33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:30:02.38 ID:lNWypBrr0
「違うでしょ? だから、プロデューサーさんを信じて、今出来ることを真美ちゃんが出来ることを精一杯頑張ればいいのよ。そうすればプロデューサーさんがちゃんとあなたをトップアイドルにしてくれるわ」

「そう、かな?」

「うっうー! そうに決まってます! プロデューサーを信じて頑張れば絶対大丈夫だよ!」

そっか、真美は亜美とは違うけど、いいんだ。
"私は"兄ちゃんを信じてれば……いいんだもんね。




34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:36:02.50 ID:lNWypBrr0
「ほら、もう涙を拭いて、シャンとしましょ。そろそろ、みんな帰ってくるから」

「う、うん」

目のぐしゅぐしゅはもう、とまってた。

「あっ、ごめんやよいっち、服ぬらしちゃった……」

「ふふっ、着替えあるから気にしないでいいよ。それより、目が真っ赤だから顔洗ってきなよ」

「うん、わかった!」

私は亜美じゃない。
だけど、それでいいんだ。

やよいっちも、ピヨちゃんもありがとう。




36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:41:59.74 ID:lNWypBrr0
――――――――――

「ねえねえ、はるるん。真美、今食べる替わりにこのドーナツ持ち帰っていい?」

「うん? いいけどどうして?」

「ひっみっつ→!」

「ふふっ、そっか、わかったよ。それじゃあ真美と"亜美"の分も包んであげるからちゃんと持ち帰ってね」

……まだまだ、みんなには敵わないなあ。

だけどいいんだ。私は私。自分の速さで頑張ればいいんだ。



終わり




37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:44:55.96 ID:lNWypBrr0
双海姉妹の話をやってみたくて、書きました。

良かったら、先日書いたのも読んでください。

美希「ミキ、怒りしんとーなの」




38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/28(水) 22:45:58.84 ID:eOkHy5Bl0





引用元:http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1354103763/l50