1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 21:54:07.10 ID:3RcWxLcV0
真美「兄ちゃん、PCで何の記事読んでるの?」

P「うわああ!……ま、真美か……」

真美「えー、何その反応ー?あ、何かアヤシゲな記事を……」

P「いや、ただの芸能記事をね」

真美「……?スッゴク怪しい……」




2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 21:55:19.25 ID:vDNEXYMj0
ズゴック怪しい



3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 21:55:20.71 ID:3RcWxLcV0
―3年前―


今日も765プロの公式HPをチェックしていたら、

『天海春香と行く 大人の七夕祭り 日帰りバスツアー開催』

こんな文字を見つけた

価格は2万円、行き先を伏せるミステリーツアーらしい

へえ……

ちょっと割高な気もするけれど、春香ちゃんに会えるのならば惜しくは無い




5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 21:57:13.72 ID:3RcWxLcV0
僕は単なる1ファン

5年前、偶然テレビで、デビューしたての春香ちゃんを見て以来、

ずっとファン

アイドルにハマるなんて思いもしなかったけど、彼女を見て、胸が高鳴った

世間的に無名の頃から、週に2,3通はファンレターを書いた




7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 21:59:15.22 ID:3RcWxLcV0
小さなイベントにも、足しげく通った

何度目かのサイン会に、花束を持って行ったとき、

「~さん、いつもありがとうございます!これからも、応援よろしくお願いしますネ!」

と言われた時は、涙が出た




8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:00:23.21 ID:3RcWxLcV0
アイドルの追っかけをしているなんて言うと、キモいオタクを想像するかもしれない

でも僕は、出来る限り清潔感のある恰好を心がけてるし、

普通に就職して、普通に働いている


仕事は辛いけれど、春香ちゃんを思い浮かべれば耐えられた

最近では上司も、嫌味と小言を言わなくなった

春香ちゃんがいなかったらちょっと耐えられたか分からない




9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:01:07.22 ID:3RcWxLcV0
春香ちゃんは今や、765プロでデビュー同期のみんなと一緒に

アイドルランクもけっこうな上位に位置している

テレビでの露出が増えたのはいいんだけど

直接会えるイベントが減ってさびしい


春香ちゃんのファンを大事にする姿勢は有名だし、

バスツアーもきっと彼女の発案なんだろうなあ……

「あれ?もう受付してるな……急いで申し込もう……」




10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:02:47.33 ID:3RcWxLcV0
そんなこんなで、バスツアーを明日を明日に控えた7月6日

僕はいつものようにネットでニュースをチェックしていた

「ん?天海春香……?」

知名度が高いとはいえ、ニュースのトップに来るのは珍しい

妙な胸騒ぎとともに、ページを開いた……



『天海春香、元プロデューサーと結婚、妊娠も!』




11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:04:30.30 ID:3RcWxLcV0
「嘘だ!!!!!」

6畳一間のカベの薄いアパートで思わず叫んでしまった

ドンっ

隣の部屋から壁ドンされてしまった……

手の震えが止まらない……




12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:05:32.51 ID:3RcWxLcV0
「…嘘だよ、嘘……」

そう呟きながら、真偽を確かめるためネットを徘徊する

「あ り え な い これは」

「まーた飛ばしか」

「いや、こういう話題での○○の的中率は異常」

……




15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:07:40.62 ID:3RcWxLcV0
結局一睡もできなかった

昨日の夜からニュースは怖くて見れなかった

憔悴しきった状態で、でも少しだけ誤報だという希望を持って

僕はバスツアーに参加することにした


集合場所にはたくさんの参加者がいた

今の春香ちゃんの人気を考えれば当然だ

しかし、参加者の表情は一様に暗く、

真っ青を通り越して幽霊のような面持ちで待つ奴もいる

バスは定刻通りに出発した




16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:09:08.49 ID:3RcWxLcV0
添乗員から、ツアーの行先は千葉県野○市、清○公園だと聞かされた

疲れ切った体の一方で、妙な興奮状態からイマイチ言葉が頭に入らない

諸注意の後、おもむろに添乗員は真面目な顔をして言った

「実は皆さんに大切なお知らせがあります」

「報道にもあった通り、天海春香さんはご結婚なされます」

「お相手は以前の担当プロデューサーで、

現在も人気プロデューサーとして活躍なされている……」




17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:09:22.87 ID:v9/cLwKR0
完全に飯田圭織ですやん



19 :>>17 そう 2012/06/29(金) 22:11:53.86 ID:3RcWxLcV0
バス内はやや騒然としていたが、昨日から報道されていたからか

叫びだす奴はいなかった

「もう一つ、おめでたいことに天海春香さんはお子様も授かっているそうです」

殊更に明るく、添乗員は言った


「……ですから、大変申し訳ございませんが、ご本人と赤ちゃんの健康を気遣い、

少々予定に変更があります……」

バス内は無言だった

隣の奴は目を血走らせている。きっと僕もそうだろう




18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:10:15.26 ID:3RcWxLcV0
頭をバットで殴られたかと思った

それくらいの衝撃だった。でも、妙に納得している自分もいた

思考がまとまらない

涙はでなかった




22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:15:54.37 ID:3RcWxLcV0
現地に着いたのはもう昼だった

春香ちゃんの姿が見える。隣にはやよいちゃんも

スタッフに紹介されて、2人は簡単なあいさつをした

その後、すぐ昼食の時間となった

本来、春香ちゃんが作るおかずが一品、付くはずだったらしいが、

相当な手間であるらしく、取りやめになった

「それはいいんだけど……」




23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:17:04.46 ID:3RcWxLcV0
用意された食事は、

○ッコーマンの烏龍茶や皿に1本だけ乗せられたソーセージ、

「7~8人」と書かれた紙が添えられたバナナ切り落とし……

周囲もザワザワしている

遠くで、ビール一杯500円で~すという声が聞こえる

買って飲んだ。こんなに胃にクるビールは初めてだった……




27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:18:53.73 ID:3RcWxLcV0
食事が終わったら、お楽しみ会ということで、巨大迷路を巡るとのことだった

入り口で、やよいちゃんがけなげに、

「うっうー、頑張ってくださいねー。はい、たーっち!」

本来、春香ちゃんともハイタッチの予定だったが、取りやめになった

やよいちゃんの横で、

「がんばってくださいね!応援、してますから!」




28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:21:37.82 ID:3RcWxLcV0
迷路の中では、いろいろと仕掛けが用意してあった

クリア時間によってグッズを手渡しでプレゼント クイズを解くとプレゼント等々

しかし、完徹明けと妙なテンションに、さっきのビールが相まって、

視界がグルグルする

壁にもたれかかりながら、「人生の迷路」という単語が、頭を駆け巡った……




29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:23:12.24 ID:3RcWxLcV0
何とかゴールすると、春香ちゃんが手渡しで水を配っていた

「お疲れ様です!」

元気な様子は、今までと変わらず天使だった……


次のイベントは、春香ちゃん、やよいちゃんと3人で写真を撮れる、というものだった

始まる前、春香ちゃんと偉そうな人が何か揉めていた

スタッフも心なしかピリピリしている

結局、予定通り行うということで、幽鬼のような顔色の参加者たちも

若干頬に赤みがさしてきたように思える




30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:24:13.55 ID:H6gl9m3o0
みんなやよいに流れるだろこれ



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:24:53.87 ID:3RcWxLcV0
最後は、トークイベントと、ミニライブ

ステージは、今の春香ちゃんの格を考えるとあり得ないほど簡素だった

冒頭、春香ちゃんから、結婚、妊娠の報告があった

「ファンの皆さんを裏切るような形になってしまい、ごめんなさい……」

目には涙が浮かんでいた




33 :>>31 元ネタがそうだから 2012/06/29(金) 22:26:10.32 ID:3RcWxLcV0
僕はもう、いたたまれなくなって下を向いていた

そうしたら、

「おめでとう春香ちゃん……」

横から小さな声が聞こえた

「春香ちゃん、幸せになってね!」

今度は大きな声だった

ふと横を見ると、禿げたオッサンが、涙ながらに祝福の言葉をかけていた




34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:27:32.95 ID:3RcWxLcV0
……おめでとう
                     幸せに……

…おめでとう!

いつしか声は参加者全員に広がった

「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」

春香ちゃんも号泣していた……




35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:29:07.95 ID:3RcWxLcV0
その後、やよいちゃんがなんとか場をつなぎ、

ライブへと突入。ややスローテンポな曲でまとめたいいライブになった

そして最後の曲

「この曲は、私にとって、一番思い出深い曲なんです……

ファンのみんなに愛されて、私も大好きで……

聞いてください、『さよならをありがとう』」




36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:30:06.91 ID:HxKIIocf0
なんか気持ち悪くなってきた

これからは安易にPとアイドルをくっつけないようにしよう




37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:31:10.74 ID:3RcWxLcV0
―いつもありがとう 大好きよ 照れた顔が浮かんだ―

―涙で目の前が霞んでいく でも幸せ―

―さよなら そう言ってそっと優しく手を振る―

―なぜかな あなたを思うと満たされるから―

―頑張ろう 今を―




38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:32:30.92 ID:3RcWxLcV0
「おめでとう」「幸せになってね」

ファンから声援が飛ぶ

「春香ちゃん、王子様にしっかりつかまえてもらってね!」

横のオッサンが叫んでいた

もう涙で顔はグシャグシャだった




40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:34:08.48 ID:3RcWxLcV0
用意された笹には春香ちゃんの

―みんながいつでも笑顔でいますように!―

と書かれた短冊が踊っていた

……ライブ後、参加者を乗せて帰るバスを、春香ちゃんはずっと見送っていた

ずっとずっと、手を振りながら見送っていた……




41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:35:08.01 ID:3RcWxLcV0
解散後、帰宅の電車に乗ったとたん僕は嗚咽した

周囲のお客さんには迷惑をかけてしまったが仕方ない

「……僕は好きだよ……ずっと好きだよ……」

「だからおめでとう」

おめでとう、おめでとうと言いながらひたすら泣きじゃくった

明日からも僕はきっと春香ちゃんのファン

ずっとファン



……

………




43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:36:11.61 ID:3RcWxLcV0
「来てしまった……」

あれから、魂の抜けたような日々を送った

上司は訝しげに僕を見ていたが、

仕事は真面目にやっていたので特に何も言われなかった

でも、日に日に、思いは募る




46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:38:10.77 ID:3RcWxLcV0
いてもたってもいられず、渋る上司を説き伏せ有給を取り、

僕はある場所に向かっていた

特徴的な「たるき亭」の看板

住所が公開されていたわけではない

しかし、熱狂的ファンにだけ知られた、ここが765プロ




48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:40:51.92 ID:3RcWxLcV0
春香ちゃんは産休に入り、会えないのは分かっていたが

僕は来てしまった

まだ時間が早いのだろう

誰もいないようだ

特に何をするでもなく、僕は佇んでいた……




50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:42:05.94 ID:3RcWxLcV0
「そこの君!」

しまった

中に誰かいたらしい

不審な男が事務所の前に立っていたら、それは通報するだろう

逃げようと身構えたその時、声の主は言った

「……いい面構えをしているねえ……」

「ティンと来た!」

は……?


―――




52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:43:39.08 ID:3RcWxLcV0
(別にホイホイここに転職したわけじゃないが……)

(ボランティアで使い走りのようなことをしているうちに)

(いつの間にか僕はプロデューサーと呼ばれていた)

真美「兄ちゃんってば!」

P「ん……?ああ、ゴメンゴメン」

真美「もう、ぼーっとしてさ。つまんなーい!」




53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:46:02.65 ID:3RcWxLcV0
真美「何々?そんな凄い記事なのコレ?」

P「ああ」

P「そういえば真美。天海春香って知ってる?」

真美「うん、知ってるよー。真美たちのセンパイだったんだよね」

P「その人の記事だよ」

『天海春香、第二子出産!!』




56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:47:33.43 ID:3RcWxLcV0
真美(確かプロデューサーと結婚したんだよね……)

真美(プロデューサーかあ……)

社長「あー、君!」

社長「春香クンへのお祝いを選んでおいてくれたまえ」

P「ええ、分かりました」

やよい「あ、私と小鳥さんも一緒に選びに行きますよー!」

P「ああ、うん、そうしようか」

P「……」

P(おめでとう、春香ちゃん)


終わり




57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:48:40.31 ID:k1ibCawd0




59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:49:46.81 ID:SN8dfd2C0

日高舞という前例があるから問題ない




61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:50:19.15 ID:3RcWxLcV0
随分前に
『天海春香と行く 大人の七夕祭り 日帰りバスツアー開催』
ってタイトルで立てたんだが、
こないだライブに行って、俺達はもうちょっとだけ幸せでもいいんじゃないか
と思って修正した

ちなみに前は電車の中で泣いたところで終わりだった




64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/29(金) 22:52:47.36 ID:FIO4nkao0
もうちょっと幸せになってもこれか…
納得できる形だけど、切なくなるな